9月半ば、柔道の篠原信一日本男子監督が全日本強化合宿で「こいつが育ってくれたら面白い」と注目する選手がいた。今年4月の全日本選手権で初出場にしてベスト8に入った100キロ超級の七戸龍(九州電力)である。

遅れてきた新人というか、隠れた逸材候補というべきか。沖縄県出身、今年社会人になったばかりで10月14日が23歳の誕生日。極真空手の全日本王者である父とベルギー人の母から受け継いだ193センチ、107キロという恵まれた身体の持ち主だ。昨年、全日本学生体重別選手権100キロ超級で初優勝してからこの1年で急成長。今年に入って初めて全日本柔道連盟の強化選手入りを果たした遅咲きである。とはいえ、那覇西高3年時のインターハイ100キロ級で位に入った頃から、一部の関係者の目には止まっていた。篠原監督もその一人。「うち(天理大)に勧誘したんだけど、イヤだって言われたんですわ。ひどいでしょう」

ひどいかどうかは別として、七戸にその理由を尋ねてみると、実に明快な答えが返ってきた。

「他にもいくつか誘ってもらったんですが、本州に出るつもりはなかったんです。地元が好きであまり離れたくなかったから」

そういうわけで地元好きの柔道少年が選んだのは九州にある福岡大。福岡は五輪メダリストを何人も輩出している柔道どころだが、選手強化はどうしても本州、とくに東京が中心だ。(篠原監督も現在は東京に単身赴任中)。そのため、昨年学生チャンピオンになるまで個人での結果もなかったことから強化ルートには乗っていなかった。

こうした背景から、国際大会の出場は9月のW杯で回目と経験が少ないのだが、長い手足から繰り出す内股や大外刈りは魅力的。体重をもう少し増やして海外経験を積めば、世界で戦える人材になるのではと期待を抱かせる。もちろん本人も「もっと外国人選手の柔道を研究して、上を目指したい」と意欲満点だ。

8月のパリ世界選手権100キロ超級では、鈴木桂治(国士舘大教)、昨年無差別王者の上川大樹(明大4年)が出場も、メダル獲得に至らなかった。来年のロンドン五輪に向け、このクラスは目下、日本柔道の頭痛のタネである。七戸のようなエリート街道を外れてきた人材をどう育てて活用するか。強化関係者の手腕も問われる選手の登場だ。(スポーツライター・佐藤温夏)