イチローの2011年の戦いが終わった。安打数は11年連続200安打に16安打足りない、184本だった。

最終戦を衛星中継で見たが、最終打席は三振という、一番イチローらしくない結果。本人も不本意だったろう今シーズンを象徴するものだった。

ただ、すぐに頭に浮かんだのは、38歳で迎えるイチローの「来季が見たい」という思いだった。少々気が早いが、イチローが何に挑戦するか、楽しみなのである。

▽体の軸のぶれか、衰えなのか

大リーグ11年目で初めて打率3割を切った原因はいろいろ取りざたされている。イチローが5月に打率2割1分と低迷した時、知り合いの大学教授で体の仕組みに詳しい医師は「体の軸がぶれている」と言った。

そのことはイチロー自身も分かっていて矯正に取り組んだと聞いたが、打撃フォームの狂いが内角球や低め球への対応に影響が出なかっただろうか。年齢からくる衰えは当然あるが、40盗塁した事実もある。

▽10年はいい区切り

本人は昨年の「10年連続」200安打はいい区切りだったと言っている。今年は数字を気にせずにプレーしたそうだが、200安打が途切れたことで、負けず嫌いのイチローがどんな目標を持つのかなあ、と興味がわく。

それでも、11年連続180安打以上はピート・ローズ(13年連続)とスタン・ミュージアル(11年連続)だけだそうで、大リーグの歴史にまた名を刻んだことには違いない。

▽夢の4割の可能性は

私は、共同通信シアトル支局の記者とシーズン中は年に何度か、メールか電話でやりとりをし、彼が帰国する年末に会うことを、2001年以来続けている。数年前だったか、「イチローは打率4割についてどう思っているだろうか」と話したことがあった。

当時、野球好きで知られる米国の古生物学者スティーヴン・ジェイ・グールド博士の「フルハウス-生命の全容-四割打者の絶滅と進化の逆説」を読んだせいだった。イチローが20代後半の脂の乗り切った時代なら、もっと現実味を帯びているはずだったが、この安打製造機が打者の夢「4割」をどう考えているか、知りたかったのである。

▽4割打者の条件

打率4割は、大リーグでは1901年以降で13度(8人)記録されているが、41年のテッド・ウイリアムス以来、達成されていない。惜しいところまで行った打者はもちろんいる。日本での最高打率はバース(元阪神)の3割8分9厘で、イチローはオリックス時代の2000年に2位の3割8分7厘をマークした。

ナイターのせいだ、抑え投手が出現して打者不利―など実に多角的に分析している、その本にこんな記述があった。

「今のアベレージヒッターは投手と打者とのちょっとした駆け引きを知らない。頭のいい打者が少ない」(ウイリアムス)。

「守備側の立場を考えられるようでなくてはいけない。最近はこの技術をマスターしている打者が少ない」(ミュージアル)。

外野手の前に落とす、内野手の間に転がす、バント安打を狙う―なにやらイチローがそんな条件を満たしているように読めたものだ。

▽イチローのスタイルなら連続安打?

1994年から昨年まで3割を打ち続けたイチローが、3割7分以上の高打率をマークしたのは3度。四球の少なさなどが壁になっている。今年の日本球界は3割打者がほぼ「全滅状態」だから、打率4割の話どころではないのだが…。

シアトルの記者からは「4割の話には乗ってこなかったが、連続試合安打にはすこし関心があったみたい」との返答だったように記憶している。率を残す難しさより、積極的に打って出るイチローが不滅の大リーグ記録、ジョー・ディマジオの56試合連続安打に思いをはせたとしても不思議ではない。

▽データ野球先進国の米国

話はイチローから離れるが、米国にはグールド博士のように学究肌のファンが作る、数字にうるさい組織「アメリカン・ベースボール・リサーチ協会=」があるそうだ。これから作られた造語が、野球記録の統計的研究つまりセイバーメトリクスである。

それを駆使したのがアスレチックスの、ビリー・ビーン。従来の打率や打点、本塁打といったものより、四球などの出塁率などに重きを置く補強つまり強打者ではない選手を集めて勝てるチームを作り、米球界に革命を起こした。それを題材にした本「マネーボール」はベストセラーとなり、ブラッド・ピット主演で映画化され、日本でも11月頃、公開される。

▽来季は日本で開幕戦

松井秀喜がいる、そのアスレチックスがイチローのマリナーズと来年3月28、29日の開幕戦を日本で開催することになった。

松坂大輔(レッドソックス)は故障離脱、松井が「恥ずかしい1年」と振り返った不振、1年目の西岡剛(ツインズ)もパッとしない成績…。

斎藤隆(ブルワーズ)と上原浩治(レンジャーズ)の2投手(レンジャーズの建山義紀選手は登録を外れる)が地区プレーオフに出場して気を吐いたが、再び日本で大リーグ人気を盛り返し、日本選手には大リーグの魅力を伝える戦略なのだろうか。そういえば、間もなくダルビッシュ有(日本ハム)のメジャー争奪戦が始まりそうだ…

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信社では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆。