プロ野球阪神の担当記者をしていた1998年、川尻投手が中日を相手にノーヒットノーランを達成したのを目の当たりにした。無安打のまま迎えた試合の終盤ではドキドキしながらスコアブックをつけていたことを今でも鮮明に覚えている。そんな大記録が最近、めっきり減っているのに気づいているファンは少なくないだろう。

セ、パの2リーグに分かれた1950年から79年までの30年間に両リーグで計43度が達成されたが、80年から昨季までの31年間では計20度に減少した。セは2006年9月の山本昌(中日)以降、パに至っては01年6月のエルビラ(近鉄)以降、達成した投手はいない。

投手にとって野球人生で1度あるかないかという難しい記録であることは分かっている。やられた方としたらたまったものではないだろう。とはいえ大記録の達成となればメディアで大きく取り上げられたりして球界はパッと華やかになる。長いシーズンの中にそんな「お祭り」があっていい。

なぜ頻度が減っているのか。96年に達成経験がある西武の渡辺監督にその理由を聞くと「打者優位の環境」という前提で、4つのポイントを挙げてくれた。

1、分析データの充実

2、テレビ中継

3、打撃マシン

4、人工芝

各球団はスコアラー陣を充実させ、対戦相手を分析する体制を整えている。その上、外部のデータ会社にもスカウティング資料の作成を依頼している球団もあるほどだ。さらに今はBS、CS放送で、どのカードも中継されていて、録画しておけば誰でも自由に見られる時代。相手投手の球種、球筋、配球の傾向などをつかむ有効な手段になっている。

分析されたり映像で見られたりする点では打者も同じだが、渡辺監督は3による打撃技術の向上を指摘し「昔は高速マシンやカーブのマシンなんてなかった。今の選手は、マシンを使って好きなときに好きなだけ打ち込める。苦手を克服できる環境がある」と説明した。

4についても渡辺監督は「天然芝や土はゴロの勢いを殺すが、人工芝で放たれたゴロの打球は球足が速い。内野手が追いつけずに外野に抜けていっている」。甲子園球場とマツダスタジアム以外の本拠地球場で人工芝を採用していることも大記録の達成を妨げている一因と言えそうだ。

今季は8月に中日のチェン、9月にオリックスの中山がともに八回1死まで無安打に封じる惜しいマウンドがあり、ノーヒットノーラン達成の難しさを再認識させた。史上74人目、85度目となる記録を達成するのはダルビッシュ(日本ハム)や田中(楽天)のような本格派なのか、それとも変化球を駆使する技巧派なのか。いずれにしても「打者優位」の現状を打ち破る偉業になることは間違いなさそうだ。

倉見 徹(くらみ・とおる)1970年生まれ。石川県珠洲市出身。共同通信で96年からプロ野球を取材。近鉄、阪神、ダイエー、ロッテ、西武、巨人を担当。現在は球界全体をカバー。