日本GPを2週間後に控えた第14戦アラゴンGPで、モトGPクラスを戦う全選手の日本参戦がようやく決定した。日本GPが行われる栃木県のツインリンクもてぎは、3月の東日本大震災で事故を起こした福島第一原子力発電所から100数十キロという距離にある。原発事故の発生以来、放射性物質の漏洩と環境への影響に不安を抱く選手たちは、「日本へ行きたくない」と一様に拒絶反応を示してきた。

彼らの不安を払拭するために、レース主催者であるFIM(国際モーターサイクリズム連盟)と運営統括するDORNAスポーツ社は、独自調査を実施。環境への影響は無視できるレベル、という結論を得た。一時は「調査結果にかかわらず、日本へは行かない」と発言して注目を集めたケーシー・ストーナー(レプソル・ホンダ)やホルヘ・ロレンソ(ヤマハ・ファクトリー)も、時間の経過とともに態度を軟化させ、8月になると「妻の妊娠が判明したためにナーバスになっていた。今はもう少しオープンに考えてみたい」(ストーナー)「周囲の意見を広く聞いて、9月には結論を出したい」(ロレンソ)と日本GP参戦に前向きな姿勢を見せるようになった。この両名は早々に<陥落>したものの、最後まで忌避感を見せていたバレンティーノ・ロッシ(ドゥカティ)も、今回のアラゴンGP記者会見で「あらゆる調査結果は(危険性に対して)ネガティブで安全という結果が出ているので、もてぎにレースをしに行く」と言明。これにより、モトGP全選手の日本GP参戦が決定した。

しかしその一方、モト2クラスや125CCクラスのイタリア系チームでは、マシン調整や整備という重要な役割を担うメカニックたちが日本行きを見合わせるという例も発生しており、必ずしもパドック関係者の全員が今回の日本GPに対する不安感をぬぐい去ったわけではない。また、新聞雑誌TV等でレースを報道するイタリアの取材陣も、かなりの人数がツインリンクもてぎの現地取材を見合わせる方向で検討中のようだ。平素から自分たちが行動を共にするライダーへの連帯感や義侠心、あるいは自らの職業倫理や仕事に対する矜持、というものは、ともすれば地域や文化による違いなどないようにも思いがちだが、その実は、考え方にかなり大きな溝や隔たりがあるということなのだろう。

さて、日曜午後14時にスタートしたアラゴンGPの決勝レースでは、ストーナーが今季8勝目を挙げた。来週の日本でチャンピオンは決定しないものの、次々戦のストーナーのホームレース、オーストラリアGPで年間総合優勝の決まる可能性が濃厚だ。もしも日本GPでその可能性が生じていたなら、果たして彼ら取材陣は、自分たちの職務を果たすべく勇を鼓して来日していただろうか?(モータージャーナリスト・西村章)