来年のロンドン五輪の予選を兼ねたレスリングの世界選手権が9月12~18日、トルコのイスタンブールで行われた。オリンピック出場を目指した例年以上の熱い思いが伝わってきたが、その中でイランが2階級にわたって出場権獲得を「放棄」する事件があり、熱戦に水を差した形となった。

いずれもイスラエルがらみのこと。イランはイスラエルを国家承認しておらず、五輪の舞台でもあらゆる競技でイスラエルとの対戦を放棄してきた(表向きはイスラエルを理由にはしていないが)。そうした選手に対し、金メダリスト並みの報奨金を与えるなど、イスラエルと接しないことを名誉と考えているところがある。

今回、男子グレコローマン96キロ級では初戦でイラン-イスラエルの組み合わせ。大方の予想通り、イランはマットに上がらなかった。

同55キロ級でも1回戦でイラン-モルドバ戦があり、勝てばイスラエルと対戦する組み合わせがあった。結果としてイランが1回戦で負け、棄権という形ではなかったが、翌日、その選手に話しかけた時の表情からして「どうせ次に棄権するんだから」という理由は容易に推測できた。

スポーツとは政治に左右されず、民族や性別をも乗り越えたところに存在すべきものだと思う。特定の民族に対して対戦拒否という姿勢を持つイランは、果たしてスポーツの国際舞台に立つ資格があるのだろうか。

国際オリンピック委員会(IOC)はかつて、アパルトヘイト政策をとっていた南アフリカに対し、五輪への出場を認めない措置をとっていた。イランのイスラエル忌避も、こうした処分の対象にしていい民族差別政策ではないだろうか。

イランは女子レスリングを認めていない国でもある。初の男女同時開催となった1989年の世界選手権では、「女性と同じマットには上がれない」として全選手が棄権したことがあった。現在でも女子はやっていないが、同じマットには上がっている。

イスラエル忌避も、いずれはなくなってくれることを期待したい。世界がひとつになれるイベントの一つがスポーツ。IOCにイランを説得してもらい、あらゆる差別をなくした舞台の構築を期待したい。(格闘技ライター・樋口郁夫)