10月3日開幕のテニスの楽天ジャパン・オープンに今年もラファエル・ナダル(スペイン)が出場することになった。世界ランキング1位の座はノバク・ジョコビッチ(セルビア)に譲っているが、現役で最高の選手の一人であることは間違いない。昨年、初来日で初優勝を飾った際に「来年も戻ってきたい」と話していたナダルが、その約束を守ってくれたことにまずは感謝したい。

福島第1原発事故の影響でトップ選手が欠場するのではという声もあった中で、ナダルの2年連続参戦は大会関係者の努力のたまものと言っていい。

テニスのツアーは秋にアジア地区で集中開催され、同じ日程で北京では中国オープンが行われる。賞金総額は楽天オープンが134万1千ドル(約1億320万円)に対して、中国オープンは333万6500ドル(約2億5700万円)と2倍以上。次の週には上海でマスターズという格も賞金額も高い大会が行われるため、トップ選手は「東京より北京」を選ぶ傾向が強かった。ナダルも2009年は北京に出場していた。その彼の心を東京に向けたのは何か。大会規模や経済情勢から、北京の大会よりも好条件で出場契約を交わしたとは考えにくい。筆者は「おもてなしの心」が彼の気持ちを動かしたのではと推察している。

昨年出場した際、ナダルは試合のない日に関東近郊のゴルフ場でラウンドを楽しみ、試合があった日も大会側が用意した車で埼玉スタジアムに向かい、サッカーの日本代表-アルゼンチン代表の親善試合を観戦し、日本での滞在を堪能した。魚介類が豊富なマジョルカ島生まれのナダルにとっては日本食も口にあったようで、銀座でスシを味わう姿も見られた。ある大会関係者は「09年に北京の大会に出場した際は試合以外の時間のほとんどをプロモーションやイベントで拘束され、ナダルはそれが不満だったようだ」と明かした。日本はその教訓を生かして、ナダルに東京での滞在を楽しんでもらおうと配慮した。彼に直接聞いたわけではないが、日本の「おもてなしの心」が中国のそれよりも心地よいものに感じたのではないだろうか。

ナダルが東京を選択した理由はまだある。多くの選手から会場の有明テニスの森公園(及び有明コロシアム)は「球足が速い」、「滑りやすい」と不評だったが、ことしはコートを全面的に改修することになった。9月中旬に行われる男子国別対抗戦デ杯までには全米オープンの会場と同じ仕様に塗り替えられ、新しいコートに生まれ変わる。日本協会関係者も「これまではコートが速いということで選手に敬遠されてきたが、全米オープンと同じ仕様になるのは、トップ選手にとって安心材料になる」と語り、有明が世界標準のコートになることを歓迎している。

日本協会によると、昨年の楽天オープンはナダルの活躍で、観客動員が過去最高の8万131人に達した。ビッグネームのプレーを一目見ようと、今年も大勢のテニスファンが会場に足を運ぶ可能性は高い。

吉谷 剛(よしたに・つよし)1975年、北海道出身。テレビ局勤務を経て2002年に共同通信へ。03年12月から07年まで大阪で阪神などを担当し、同年12月に東京に異動。横浜や大リーグ野球担当の後、卓球やテニス、JOCなどを幅広く取材。