夏の風物詩、鈴鹿8時間耐久ロードレースは今年で34回目を迎えた。このレースは、7月最終日曜の午前11時30分にルマン式スタートで戦いの火蓋が切って落とされ、日没後はヘッドライトを灯したマシンが、蛍のような残像を残しながら猛スピードで暗闇の中を駆け抜ける。そして19時30分に戦いが終わるまで、コース上では数え切れないほどのドラマが生み出される。過去には、ケニー・ロバーツやウェイン・レイニー、ミック・ドゥーハン、加藤大治郎、バレンティーノ・ロッシという数々の名選手たちが優勝を飾ってきた。

しかし、今年の8耐はいつもの年とは少し様子が違っていた。日没後のナイトセッションが行われないのだ。3月11日に発生した東日本大震災の影響で、現在も日本各地で憂慮される電力不足への配慮として、鈴鹿サーキットは全施設の電力を節約するためにスタート時間を1時間繰り上げることになった。つまり、レースは午前10時半に始まり、日没前の18時半に終了する。鈴鹿サーキットの担当者は「今年はレースを休止するという選択肢もあったが、最悪の事態を回避しながらできるだけ例年通りにやろうと努力した結果、このようなスケジュールになった」と話す。

金曜日と土曜のセッションを経て、ヨシムラスズキ(加賀山就臣、ジョシュ・ウォーターズ、青木宣篤)がポールポジションを獲得。2番手はMuSASHi RT HARC-PRO.(ホンダ/高橋巧、玉田誠、岡田忠之)、3番手はMONSTER YAMAHA-YART(中須賀克行、イゴール・ジャーマン、グウェン・ジャバニ)、4番手にF.C.C.TSR(ホンダ/秋吉耕佑、伊藤真一、清成龍一)という順で決勝を迎えることになった。

日曜の決勝レースは、序盤にMONSTER YAMAHAがトラブルに見舞われて戦線を離脱し、ホンダの2台とヨシムラスズキが終盤までトップを入れ替える、スプリントレースさながらの展開になった。最後はF.C.C.TSRがじわじわと抜け出し、最多周回記録の217周を記録して優勝。チームは2006年以来となる2回目の8耐制覇を達成した。選手の秋吉は2回目、清成と伊藤はこれが4回目の優勝。宮城県出身で自身も被災した伊藤は、今回の8耐で自身が活躍することにより、被災者たちを勇気づけたいという特別な思いを胸に秘めていた。日曜の決勝レースには、女川第一中学の生徒たちや石巻の人々も応援に駆けつけた。

「地元に帰ると、力を出さなければいけない状態であるといつも感じる。レースは結果がすべて。自分にできる表現方法はこれしかないので、今日は優勝できて良かった。今後も復興に力を尽くしたい」と、上気した表情ながら伊藤は落ち着いた口調で語った。

34回目の鈴鹿8耐は、今年の日本の世相を反映するという意味でも象徴的な、記憶に残る好レースだった。(モータージャーナリスト・西村章)