まんが甲子園をはじめ、俳句や書道など、スポーツに限らず多くの全国大会・イベントに「甲子園」が付けられている。郷土を代表し日本一を目指す上で、一番響きのいいブランドなのであろう。

本家本元の高校野球の夏の甲子園大会は終盤を迎えている。東日本大震災という重苦しさをはね返そうと、主催者などは例年以上に盛り上げているようにも感じる。

サッカーやラグビーなど他高校スポーツに比べても、こうした“頂点"を持つ高校球児は幸せなのかも知れないが、一方で、高校野球の光と影とでもいったらいいのだろうか、問題点も結構あると思う。

▽遠かった甲子園

私も高校で硬式野球をやった。大阪の公立校で9人そろえるだけで苦労し、甲子園などは夢のまた夢だったが、面白かった。大学時代は母校に通い、指導に明け暮れたものだ。

選手たちは未熟と成熟が入り交じり、成長著しいかと思えば精神的にもろい。ひたむきさと反抗心も同居する。大学野球などと違って、地域性があり、絆も強かった。

私のすぐ後には団塊の世代が入部し、勝てるようになった。コーチを退いた5年後には、元中日選手で楽天の初代監督だった田尾安志君がエースで4番の時、夏のベスト4になった。それでも、甲子園は今日まで遠いままだ。

▽甲子園だけがすべてじゃない

1人の後輩を思い出す。最初はとても3年間は持たないと思った、やんちゃな若者が野球をやり通し、努力して中学教師になった。

若くして亡くなったが、奥さんからの手紙に「高校野球をやり通せてよかった、と言っていました」とあった。なにも野球だからという話ではないのだが、彼を思い出す度に「甲子園だけがすべてじゃない」と思う。

今夏の大会参加は全国で4000校以上。その一握りが甲子園に出場するが、全国的な強豪校は、また違った苦労があるだろう。

▽高校野球は“魔物"

最近、読んだのが「理由」で直木賞を受賞したベストセラー作家、宮部みゆきさんが20年ほど前に書いた推理小説「パーフェクト・ブルー」。東京都の野球新興校が甲子園常連校を追い落とすために事件を仕組むことから物語が始まる。

登場人物に、不祥事を起こした高校を「学生野球憲章を掲げる高野連が甲子園出場を許すわけがない」と語らせている。もちろん小説なのだが、高校野球の影の部分をずばり突いているように思えた。高校野球はある意味、魔物である。

▽宮部みゆきさんといえば

宮部さんが野球に詳しいかどうかは知らないが、登場人物に「(野球以外の)団体競技で、勝ち負けに特定の個人選手の名前をつけるものがありますか? 勝ち投手、負け投手。実に珍しいスポーツ」と語らせた。そして、投手は体力・技能のほかに孤独に耐え切れるだけの強靭な精神力が求められる、と分析しているのが印象的だ。

そういえば、宮部さんは小説「火車(かしゃ)」でも、半分を取り壊し、住宅展示場になった大阪・ナンバの大阪球場を登場させている。私にとっては初めてプロ野球を見た球場であり、日本シリーズでの「江夏の21球」の舞台でもある。びっくりさせられた。

▽度が過ぎた高校野球

さて、特待生問題。どのスポーツでも、高校ともなれば特待生として進学することは珍しくないが、高校野球は度が過ぎていた。2007年のプロ野球裏金問題から飛び火した格好で、その実態が明らかになった。

日経新聞によると、当時の日本高野連の調査で、入学金や授業料免除などの特待生は全国に約7900人いた。チームで50人以上が19校に上った。現在は「1学年5人以内」とする暫定指針で、かなり減ったが、問題が解決したわけではない。依然として“野球ブローカー"の存在が取りざたされる。

▽肥大化にいまだ残る不安

私の甥っ子は、少年野球の仲間数人と大阪から宮崎県の私立に野球留学した。今夏の甲子園にも出場した野球有名校だ。準レギュラーとして甲子園大会や明治神宮大会に出場し、ヒットも打った。

しかし、割り当てられた大学進学がうまくいかず、野球を断念した。相談された時は手遅れだった。地元の高校なりに進んでいたら、もっと長く野球人生を送れたかもしれない、と思うと残念でならない。

肥大化した高校野球は、まだまだ危険なものをはらんでいると思う。国民的行事という人もいるだろうが、加熱すれば、また同じ問題が起きる。こんなことを心配しながら、高校野球を見ている。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信社では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆。