「ワンワン」と聞くと、今でも少し血圧が上がる。といっても犬の話ではない。「ONE ONE」。正式には間にONが入り「ONE ON ONE(ワン・オン・ワン)」という。

アメリカンフットボール版のぶつかり稽古とでもいえばいいだろうか。アメフト部だった大学生のときよくやらされた、1対1で当たり合う練習である。

相撲の稽古と同じように、周りを他の選手が囲み、勝った方が残って違う人間が挑む。夏合宿の時など時間が長いから、わざと負ける部員もいた(はず)。私は線の細いレシーバーなので、どうやっても体格のいいラインの選手には勝てない。痛いし、暑いし、あまりいい思い出ではないのだが、最近よくあのころのことが頭をよぎる。

今、担当する大リーグのレッドソックスには日本選手がいない。岡島秀樹投手はマイナーの3Aに降格となり、松坂大輔投手は今季絶望となる肘の手術で、リハビリの日々。その結果、過去4シーズン、ほとんど欠かさず観戦したチームを離れることになった。日米大学野球、日本選手不在だったメジャーのオールスター戦、最近では「なでしこ」余波で女子サッカーの取材も。新鮮さと楽しさを味わう一方で「はじめまして」と片っ端から名刺を切り、慣れない現場の緊張がある。取材が終わると、今まで使わなかった脳みそや、神経を擦り減らした疲労を覚える。

多くなったのはオリオールズ上原浩治投手の取材だ。チームの低迷をよそに、本人は絶好調。故障の不安を抱えた過去2年と違い、早くも登板40試合を超え、防御率は1点台。四球が少なく三振が多い、理想的な投球を続けている。テンポが良く、これまでと同じつもりでスコアブックに記入すると、顔を上げた時には次の球を投げているほど。

取材の受け答えも当意即妙でテンポがいい。1点リードの九回、ブルペンで準備したが点差が広がり、登板がなかったときのこと。「気合の入る場面だったと思いますが」の問いに、返ってきた答えは「1点差で最後というのは緊張します。気持ちを高めたんですけど。あの気持ちを返してほしいですね。作り上げた気持ちとブルペンで投げた体を返して下さい」。

上位の他球団がトレードを画策しているという報道について聞くと「もし本当に誘いがあるならいい励みになる。モチベーションが高まっていく。(移籍となれば)もちろんプレッシャーも大きいでしょうけど、今は(最下位で)そういうプレッシャーなくやっていますから」。取材だからと構えすぎず、本音ものぞかせながら、笑いまで交えてくる。エンターテイナーだなあ、と頭が下がる。

レッドソックスではまずなかったが、最近は日本人記者が私だけのことも多い。タイミング悪く3試合連続で登板なしもあった。こうなると角度を変えて質問を考え、順番を組み立てていくしかない。そうそう、ここは初めての球場のはず。その感想から入って、去年チームメートだったあの選手のことを聞いて、話が盛りあがったら投球理論を聞き出せないか…。

そんなとき、弱いながらもヘルメットの当たる角度、腰や足の動かし方を工夫しながら相手にぶつかっていった汗臭い学生時代が、ふと思い出されるのだ。

木村 壮太(きむら・そうた)1973年生まれ。横浜市出身。97年共同通信に入社後、相撲、プロ野球(オリックス、阪神、横浜)、モータースポーツなどを取材。2007年からボストン支局に赴任し、レッドソックスを中心に大リーグなどを担当。