早くも今年の12月が待ち遠しい。梅雨が明けたばかりで、目も眩むような太陽の季節がやってきたばかりのこの時期に、こいつはなにを言っているんだと思われるだろう。

でも、12月にはFIFA(国際サッカー連盟)の年間最優秀選手賞の発表がある。ここで、我らが「なでしこジャパン」の絶対的キャプテン沢穂希が、上位で表彰されるのはまず間違いないからだ。

▽夢じゃない「ゴールデンボール」

Jリーグが幕を開けた1993年。男子サッカーの華やかさを目にしながら、沢は日本代表デビューを飾った。以来、18年。決して恵まれているとはいえなかった日本の女子サッカーを牽引してきた最大の功労者に、ワールドカップのメダルとともに、個人としての勲章を与えてあげたいと思うのは、私だけではないだろう。

昨年まで5年連続でFIF年間最優秀女子選手に輝いていた、ブラジルの“スカートをはいたペレ"マルタがワールドカップの準々決勝で敗退したことを考えれば、決勝でアメリカを破りさえすれば沢がゴールデンボール(最優秀選手賞、2位はシルバーボール、3位はブロンズボール)を獲得することも夢ではないだろう。

▽日本でただ一人のワールドクラス

近年、日本のサッカーは男女ともに急速な進歩を遂げた。しかしながら、それはチームとして見た場合であって、個人ではない。そのなかで沢は、歴代の男女を合わせて日本が世界に誇れるただ一人のワールドクラスのフットボーラーといえる。

唯一それに肩を並べられるのは1968年のメキシコ五輪で得点王に輝いた釜本邦茂さんなのだろうが、その釜本さんにしてもワールドカップという世界最高の舞台で戦ったことがない。それを考えると世界が確実に認めているのは、沢だけだろう。

▽「完璧なサッカー選手」を体現

“コンプリート・フットボーラー"。完璧なサッカー選手という意味のこの言葉は、66年に母国でのワールドカップを制し、同年の欧州年間最優秀選手に輝いたイングランドのボビー・チャールトンに与えられたフレーズだが、まさに沢はこの言葉を体現する選手だ。

167センチの身長は、体格に恵まれた欧米の選手に比べれば、見劣りはする。しかし、それを補って余りあるのが、なによりサッカーを知っているということだ。

次になにが起こるのか。どこのエリアが危ないのか。どのタイミングで飛び込むと点が取れるのか。ピッチで起こる現象のすべてを熟知している女子選手として、世界でも稀有なタレントと言っていいだろう。

▽「なでしこ」操るハンドル

チームのなかの11分の1の存在でありながら、その11の個性を一つの頭脳で自在に操れる。本来は攻撃的な選手だったが、北京五輪から、より視野を確保できるボランチにポジションを下げ、文字通りの「なでしこ」という小回りの利くスポーツカーのハンドルとなった。

そして勝負どころでは、必ずといっていいほど点に絡む。準決勝のスウェーデン戦までで挙げた代表での通算得点は79ゴール。これまでの日本サッカーの記録保持者だった75得点の釜本さんも、彼女の活躍を見れば納得だろう。

スウェーデン戦の失点の原因となったパスミス。これも、後に沢のサッカー人生を振り返ったときには、ドラマを盛り上げるためのいいエピソードになるのではないだろうか。

▽日本に付き添う「順風」

ドイツで行われている女子ワールドカップを見ていると、なでしこジャパンには順風が付き添っているように思われる。

準々決勝のドイツ戦。延長で決めた丸山桂里奈の角度のない右サイドからのシュートは、本来ならばGK正面のボールだった。しかし、名手といわれたアンゲラーは、我慢できなかったのか、セオリーでは決してありえないニアポスト側に倒れこんでシュートコースを空けてくれた。

さらに準決勝のスウェーデン戦での2点目、3点目はGKリンダールの明らかなクリアミス。1次リーグのイングランド戦で不安定だったGK海堀あゆみの復調とは対照的に、いまの日本には相手GKがゴールをプレゼントしてくれている。

▽未来を変える成功体験を

決勝の相手アメリカは世界ランク1位? 過去の対戦成績は日本の0勝3分け21敗? そんなことは関係ない。いまの彼女たちだったらやれる。そして、勝つという成功体験を得ることが日本の女子サッカーの未来を変えることは間違いない。

以前、ジーコが言っていた。「1回優勝したチームは、また勝てる。でも準優勝で終わったチームは、優勝までの道のりはすごく険しい」と。そういえば、昨年のワールドカップ南アフリカ大会で準優勝したオランダは、常に優勝候補だが、決勝で3回すべてに敗れている。

▽選手は野菜ではない!

ところで、この7月はメキシコで行われたU-17(17歳以下)のワールドカップに女子ワールドカップ、コパ・アメリカ(南米選手権)とテレビの前を離れられない日々が続いている。そこで気になるのが、テレビから発せられるアナウンサーの実況だ。

スウェーデン戦の3点目となった川澄奈穂美の30メートル超のシュートも「ミドルシュート!」。この国にはロングシュートはないのだろうか。個人的には25メートルを超えればロングシュートと思っている。

GKのいるゴールに向かっての25メートルのシュートは、自分でボールを蹴ってみればわかるが、かなり距離がある。そして日本人選手は海外の選手に比べて、それほどシュートレンジが広いとも思えないのだが。

さらに、選手が「傷んでますね」も、とても気になる。選手が「傷めましたね」なら理解できるが、「イタんでます」は、まるで選手が野菜や果物のように思える。食中毒に気をつけなければならないこの時期、テレビから 流れてくる「イタんでます」を耳にすると、なぜか青カビの生えたミカンを思い出す。

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている。