毎年、シーズン中盤戦の時期に行われるイタリアGPは、同国のモータースポーツ人気の高さを反映して一種独特のすさまじい盛り上がりを見せる。今年は年間カレンダーの第8戦に組み込まれ、7月3日に決勝レースが行われた。今年は特に「ローマ法王の次に有名」とも言われるスーパースター、バレンティーノ・ロッシが、イタリアメーカーのドゥカティに移籍したシーズンだけに、ファンの期待は一層大きく膨れあがった。ドゥカティのマシンに跨るロッシの姿を一目見ようとトスカーナ山間のムジェロサーキットに詰めかけた観客数は、3日間総計で12万7102人。会場中の至るところがロッシのキャラクターカラーを表す黄色や、ドゥカティのコーポレートカラーである赤のシャツを着た人々で溢れかえった。

イタリアの人々は、愛国心が非常に強い。気さくなラテン気質ともあいまって、ロッシや自国選手たちに対して、まるで自分の身内を見守るように献身的かつ熱狂的な姿勢で応援する。ロッシ自身「応援してくれるのはとても嬉しいけれども、過剰な親近感で親戚の子供のように接してくる人が多いのはちょっと閉口する」と自叙伝の中で告白しているほどだ。

昨年のイタリアGPでは、金曜の練習走行でそのロッシが転倒し、以後の走行を欠場することになった。レースでは当時チームメイトだったホルヘ・ロレンソが優勝し、早期回復を願う意味も込めてロッシのキャラクターTシャツを着て表彰台に登壇した。イタリアGPでは、レースが終了するとフェンスを開いてコースを観客に開放する。表彰台下に蝟集した大勢のファンは、ロレンソの善意と敬意を額面通りに解釈せず、むしろ「バレンティーノをバカにしている」「何様のつもりだ」と反発し、大ブーイングを送った。

今年のレースでもロレンソ(ヤマハ・ファクトリー)が優勝した。2位はイタリア人選手のアンドレア・ドヴィツィオーゾ(レプソル・ホンダ)。表彰台に上るロッシの姿を拝めなかった分、持ち味の粘り強い走りで2位につけたドヴィツィオーゾには、観客たちは惜しみない拍手と大声援を送った。しかし、優勝したロレンソが登壇すると、その大喝采は声援半分ブーイング半分、という構成に変わった。一部には、愚弄の意味を込めたイタリア語の言葉を唱和する集団も。

アウェイの地では、地元を応援するファンからの敵意に直面しなければならないのは、どの競技にもつきまとう。ロレンソの場合は特に、イタリアのファンにとって「我らがロッシ」のにっくきライバル選手である、ということを認めなければならないかもしれない。それでも、できれば勝者にはもう少し敬意をもって接してあげてほしい、とも思う。とはいえ、それもこれも含めてすべてがイタリア人気質であり、イタリアGPの特徴、ということなのだろう。(モータージャーナリスト・西村章)