競技スポーツの高度化に対応するために重要なものは何か。なでしこジャパンに沸いたあとだから、一つエピソードを引くと、彼女たちが試合前に被災地や過去の試合映像を見て気持ちを震い立たせたとして評判になった映像活用法は、科学的に立証されたメンタルトレーニングの手法の一つ。サッカー界では、1995年のユニバーシアード福岡大会で優勝した男子日本代表もいち早く導入していた。現在では数々の競技に当たり前のように浸透しているが、当時はかなり珍しいもの。このことは一例に過ぎないけれど、世界のてっぺんを狙うには、質の高い科学的サポートと、それを取り入れる先見性が大切なことがよくわかる。

国立スポーツ科学センター(JISS)研究員の鈴木なつ未さん(31歳)は、拓殖大柔道部出身のスポーツ医学博士。大学3年のときにスポーツ科学と出会い、筑波大大学院博士課程で選手のコンディショニングなどを研究する運動生理学を学んだ。商学部卒業の鈴木さんは研究室でも異色の存在だったが、猛勉強の末、2008年に博士号を取得した。「研究というのは地道な作業。何度もくじけそうになりましたが、自分を育ててくれた柔道に研究者となって何かお返ししたいという思いで乗り越えました」

鈴木さんがすごいのは、博士課程終了に合わせて難関と言われるJISSの公募試験に合格して研究場所を確保しただけでなく、大学院時代の研究をまとめた論文「女性アスリートにおける月経状態および種目特性が骨代謝動態に及ぼす影響」において、平成19(2007)年度日本臨床スポーツ医学会学会賞(内科分野)を受賞したことだ。

「自分でも信じられませんでしたし、恩師もとても驚いていました」

スポーツ科学の研究を始めてわずか6年ということを考えれば、相当な快挙。しかもこの分野はサンプル数の確保が難しく、「調査が大変で取り組む人が少ない」という。要するに面倒であまり人気がない領域に果敢に取り組んだということだ。

こういう人材は大切にしたほうがいい。女子競技のレベルアップがこれからますます進むことを考えれば、手のかかる女性特有の条件をテーマにしている研究者の育成もまた重要だ。そうした研究から16年前の映像活用のような科学的サポートが生まれることだってある。(スポーツライター・佐藤温夏)