チェコとスロバキアに分離した1993年以前のチェコスロバキアは、34年イタリア大会、1962年チリ大会とW杯で2度の準優勝。東欧諸国のなかでは、世界のひのき舞台で最も成功を収めたチームだった。

▽バルサに通じるパス・サッカー

東西の壁が崩壊する90年代以前の共産圏のなかでは、工業国として栄えたチェコスロバキア。その緻密さがサッカーに反映されたのかはわからないが、旧ソ連に代表されるようなスピードとパワーを前面に押し出したサッカーと一線を画すように、この国のサッカーはテクニックを重視するものだった。

そのなかでも代名詞となったのが「ウルチカ・パス」だ。小路を通すパスという意味を持つチェコスロバキアのサッカーは、密集地帯でも軽々とショートパスを通し、ある意味で現在のバルセロナに共通する、見る者を魅了するものだった。

今回、キリンカップで来日したチェコには、残念ながらその面影はなかった。逆にパスを通すという意味では、日本のほうが優れていた。それがチェコの36・8%に対し、日本の63・2%というボール支配率の数字に表れたのだろう。

▽行き止まりの小路でパス回し

とはいうものの、本家のお株を奪う日本のウルチカ・パスは、数字が示す内容を持ったものだったのだろうか。決してそうとはいえない。例えるならば日本のパスは、行き止まりの小路で回されるパス。その先にゴールはないのだ。

試合後の会見でザッケローニ監督は、得点を感じさせるシーンが少なかったことについて問われると「11本のシュートを放った」と答えていたが、そのほとんどはFK絡み。流れの中からチャンスを作ったのは後半32分に本田が起点になった場面。岡崎、李の連続シュートが、GKチェフの美技に防がれた場面ぐらいだった。

▽極端に少ない縦のパス

バルセロナのパスが、ゴールを奪うための周到な準備であるのとは違い、残念ながら日本のパス回しは、時としてゴールを奪うことよりもパスを回すのが目的ではないのかと思わされることがある。極端にいえば、相手の策略にはまって、パスを回す方向に仕向けられているのかもしれない。

なぜなら日本がパスを回しているのは、ほとんどが相手ゴールから遠いところばかり。しかも横パスや後ろに戻すパスがほとんどで、相手の脅威となる縦に入るパスが極端に少ないのだ。

日本人のメンタリティとして「自分のところでミスをしてボールを奪われてはいけない」という思いが働くのかもしれない。それを差し引いても、もっとシュートに直結するゴール前での縦方向へのパスを増やしてもいいのではないだろうか。

案外それは簡単な事なのかもしれない。選手個々の意識を変えることで、ゴール前の迫力はかなり変わると思うからだ。

▽ゴールから逆算したパス回しを

リスクを負った縦パスは、初めはミスになる確率も高いだろう。しかし、チャレンジすることで、トップに張っている選手のボールの受け方も、間違いなく向上していく。パスを出す選手も、ゴールという成功体験を積み重ねることで、縦パスの快感を知るはずだ。

今秋から始まるW杯アジア予選では、日本を相手にするチームは、間違いなく守備を固めてくるだろう。当然、日本はボールを支配する時間が長くなる。しかし、それが何なの? といいたくなる。

サッカーはゴールを挙げた数で勝敗を競うもの。本田のいう「さすがと思わせるサッカー」をやるためには、常にゴールという結果から逆算したパス回しが不可欠だ。ペルーも含めた3試合すべてが0-0で終ったゴールシーンのないキリンカップを見ると、特にそう思う。

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている。