モトGP第7戦、オランダGPの舞台は、フローニンゲン南部の街、アッセン郊外にあるTTサーキットアッセン。TTとは、ツーリスト・トロフィの頭文字を取った略称で、この大会は「ダッチTT」という名称でも親しまれている。

ここは、現在のモトGPが行われている全18戦で最も古い歴史を持つ。1949年のロードレース世界選手権開始当初から開催され続けている唯一のレースであるだけではなく、さらにその歴史は1925年にまで遡る。6月最終土曜に決勝を行うという当時の伝統が現在に受け継がれている点も、特徴的だ。かつては、この時期はTTウィークとも呼ばれ、様々なカテゴリーのレースがいくつも併催された。実際に、10年ほど前まではサイドカーや欧州選手権などがサポートレースとして行われ、欧州選手権を戦っていた日本人選手が優勝して表彰台に日の丸を掲げたこともある。

長い歴史があるだけに、人気も高い。伝統と知名度の高さは、日本でいえば高校野球に相当するような国民的スポーツ大会、といってもいいだろう。このサーキットでは、老人が孫の手を引いてのんびり観戦する姿が、ごく当たり風景としていたるところで見受けられる。

ダッチTTの開始当初は、今よりもやや東の公道区間を使用してレースが行われたが、1955年からは現在のクローズドコースへ場所を移した。2006年にコース前半区間に大改修が施され、公道レースの面影は完璧に消え失せた。全面的近代サーキットとなったこの工事の際には、「以前のコースのほうが良かった」「レース界の<大聖堂>を汚す行為だ」と批判的な声も上がったが、それらの声も時間の経過とともに沈静化し、今も昔も攻略しがいのある難コースとして選手たちに受け入れられていった。

そして当地はまた、<ダッチウェザー>とも呼ばれる、一日のうちに何度も表情を変える天候でも有名だ。今回のレースウィークも雨が降ったかと思うと陽が射し、そしてまた一帯を黒い雲が覆うという、そんな大会になった。決勝日も午前中は雨が降ったが午後のレースはドライコンディションで始まった。この難しい状況を制したのは、昨年からモトGPに参戦を開始したB・スピース(ヤマハ・ファクトリー)。グランプリ初優勝の記念すべきレースとなったが、特に今回はヤマハのグランプリ参戦50周年を記念するカラーリングで臨んだ大会だけに、より重みのある勝利となった。

「最後の4周は『このまま雨が降らないでいてくれ』と祈り続けた」とスピース。「今日は、今まで戦ってきた中でも最高の勝利。子供の頃に憧れていた選手たちがテレビで競い合っていたまさにその場所で、自分が優勝できるなんて本当に格別。この重みを本当に実感できるまで数日かかるかもしれないけれど、今はとにかくうれしい」と、いつもの淡々とした調子ながら、やや頬を上気させた表情で語った。こうして今日、アッセンの歴史に新たなページが刻まれた。(モータージャーナリスト・西村章)