今日の現役世界王者たちに加え、明日のスター候補らがひしめく英国ボクシング界。その充実ぶりを象徴するかのように、他国ではなかなか実現が困難と思われるようなファン垂涎のライバル対決でさえも実現させてしまった。しかし、5月21日のロンドンでの英国スーパーミドル級王者と英連邦同級王者の統一戦が、両者とも無敗の新鋭とはいえ、なぜゆえ世界戦にまさるとも劣らない注目を集めたのか?その鍵は、25歳の英国王者ジェームス・デゲールにあった。

北京五輪の前年開催のアマ世界選手権では、初戦敗退。ところが、翌年の五輪では、専門家筋の予想を覆すミドル級金メダル獲得で、この快挙により、英国女王からMBE勲章(大英帝国勲爵士)を授かった、まさにスーパースター街道を行くことをプロ転向初戦から運命づけられた男。MBEといえば、かつてビートルズが外貨獲得による国益貢献を称えられて授かり、そのメンバーのジョン・レノンが後年、英国政府のビアフラ戦争関与などに反対を表明して返還したのと同じ勲章だ。とはいえ、デビュー戦では、終始安全運転に徹した試合をしたため、観客席から声援ならぬ野次を飛ばされる不安な船出となった。しかし、瞬く間にプロ仕様へと改造し、昨年12月には歴戦の勇者ポール・スミスを9回TKOで破り、英国王座を獲得。米国「リング」誌の今年4月号でも特集が組まれるほどになった。

英国の名門ブランド「ロンズデール」も後援を公式に宣言し、怖いものなしのデゲールだったが、彼には憎んでも憎みきれない天敵がいた。23歳のジョージ・グローブズ。無敗の英連邦王者にして、その肩書には「アマ時代に五輪覇者のデゲールを破った男」という形容詞が添えられ、今でもデゲールに勝てると公言する。

常日頃、口を開けば激しい舌戦となる両雄だが、予想は、五輪優勝後、劇的に人生が変わったデゲールが圧倒的優位。専門誌の特集でも関係者31人中、グローブズ勝利の予想は2名だけ。ところが、結果は、グローブズが言葉どおり、12回判定勝利でデゲールを破ったから、英国ボクシング界は、予期せぬ方向に、さらなる充実した展開を繰り広げることになった。期待に違わぬこの熱戦のスコアカードは、ジャッジ1名がドロー、残る2名がグローブズ勝利もその差は、わずか1ポイントだ。(草野克己)