その悲鳴は、バックネット裏の記者室にまで響いたという。4月5日、プロ野球巨人の阿部慎之助捕手が、阪神との練習試合の守備でファウルボールを追った際に右脚を痛めた時の話だ。ふくらはぎを押さえ、自力では歩けない。開幕を直前に控えたベンチは騒然となった、と聞いた。肉離れを起こしたのか―。誰の目にも軽症ではないことは明らかで、この場に居合わせなかった私もその故障の詳細を伝えるべく、翌日から取材に走ったのだが、球団側の対応は意外なものだった。

「球団の方針で診断結果は出せません」

監督も含めて関係者の口は固く閉ざされ、今までにないほどのピリピリムード。それまではきっちりと発表されてきた症状や正確な故障箇所、全治に要する期間など一切の情報が、今回は「球団の方針」という分厚い壁に遮断され、すっかり闇に消えた。球団内にも一部で「今まで通りに発表すべき」との声が出たそうだが、結局、5月17日の交流戦初戦に阿部捕手が再び顔を見せるまで、詳細に踏み込んだ情報は開示されなかった。

釈然としない思いが残る。阿部捕手はチームのキャプテンを務め、攻守の鍵を握る選手。確かに、ライバルチームにとっては、阿部のけがの程度や復帰時期は戦い方を進める上で大事な情報になるかもしれない。だが、それなら隠してしまえ、という考えならどうなのか。プロ野球は興行であり、選手は大事な「商品」でもある。チームの勝ち負けだけでなく、選手を追いかけているファンも少なくない。まして日ごろから「正々堂々」を旗印とする原辰徳監督のチームである。目の前で起きたことを隠すわずかなメリットより、「阿部選手は交流戦には戻ります。しばらくは苦しい戦いになりますが、一層の応援をよろしくお願いします」くらい、大きく構えた方がふさわしかったのではないか、と思う。

徹底した故障者の情報隠しといえば、毎年のように激しくペナントレースを争う中日の落合博満監督のやり方だ。かつて原監督は、新聞の手記の中で「中日の強さには敬服するが、スポーツの原点から外れた閉塞感のようなものには違和感を覚えることがある」と記したことがある。現場でも、「球団の方針」には、どこかもどかしさを感じているかもしれない。今季の巨人は開幕後も主力級の故障者が相次いでいる。今のところは阿部捕手の場合のように、情報を完全に表に出さないケースはないが、シーズンが佳境に入ればどうなるか…。これ以上のけが人も御免であるが、それ以上に何とも暗い響きの漂う「球団の方針」という言葉はもう聞きたくない。

早川 雄三(はやかわ・ゆうぞう)1976年生まれ、埼玉県出身。2000年に共同通信社入社。東京、福岡、大阪、仙台でダイエーや楽天、西武などプロ野球を中心に取材。今季は巨人担当。