4月29日に開催された柔道の全日本選手権では、今年も「クセ者」チェックが楽しかった。体重無差別で争われるこの大会は、優勝候補に名前の挙がるようなメジャーな選手とはまた別に、全国10地区の予選を勝ち上がってきた選手が出場する。彼らの中には独自の柔道スタイルにこだわりを持つ個性派が揃っていて、華やかさはないけれど、大会に深い奥行きや味わいをもたらしてくれる。

関東予選で優勝し、90キロ級ながら4度目の出場を果たした加藤博剛(千葉県警=沖縄県石垣市出身、25歳)もクセ者の称号に値する一人。今大会も相手の柔道着の袖口を延々と絞ったり、相手の帯をつかんでテコの原理でうまく転ばせたり。今大会もねちっこく、かつトリッキーな動きで対戦相手をイラつかせてスキを作ることに見事に成功していた。

「相手をだましたり、ひっかけたりするのが最高に面白い。そういう技術の研究は大好物です」

ところが、である。絶好調で迎えた3回戦の相手の研究に、痛恨のミスがあった。

「相手が左組みだと思って対策を立ててきたのに、組んでみたら右組みだったんです! 考えてきたことが全然できなかった。あぁ…」

あまりに初歩的過ぎる勘違い。けれど、加藤が腹を立てているのは、予想と違う展開に柔軟に対応できず一本負けした自分だ。

「去年もここ(3回戦)で負けたんですよ。オレはこういう星の下に生まれたのかぁ……」

そうでしたね……と暗い返答をしかけたとき、いがぐり頭の少年がとことこ近寄ってきた。小さな手でまっさらな色紙を差し出している。

「え? サイン? オレなんかでいいの?」

何度も念押しして少年の深いうなずきを確認すると、加藤はごっつい手でぎこちなくペンを走らせた。

「オレはこんなふうにサインをもらったことがないんですよ。小さいころ自分が憧れられる立場になるって決めたから。オレ、まだまだ頑張らなくちゃいけませんね」。照れながらちょっと元気を取り戻していた。(スポーツライター・佐藤温夏)