プロ野球が開幕して約3週間。斎藤祐樹(日本ハム)や沢村拓一(巨人)ら注目の新人投手は昨年の大学野球で取材しており、ぼちぼち本格的な実力診断をしなければと思っている。だが、前回に続きプロ野球界のリーダーであるべきコミッショナーについて書きたい。

▽プロ野球選手出身者の起用を

プロ野球は今、何度目かの曲がり角にある思う。じわじわと人気が下がり、有望選手を大リーグ(MLB)に持っていかれる。改革に向けて12球団が一致団結する上で、プロ野球選手出身者を一度トップに据えてはどうかと考える。70年以上の歴史を持つプロ野球がこれまでセ、パ両リーグ会長を含め、OBをトップに据えたことはない。大相撲に目を向けると、昨今弊害を指摘されているが、日本相撲協会はこれまで力士出身者ばかりで運営してきた。プロ野球界に人材がいなかったわけでなく、七不思議の一つだった。さしずめ、王貞治氏(ソフトバンクホークス会長)あたりにひと肌脱いでもらいたいと思っている。

▽見えてこなかった理念

2008年7月に就任した加藤良三コミッショナーが任期途中であることは承知の上だ。加藤氏は就任時に「野球ファンの考えや心がどっちに向いているかを見ていきたい」と話した。だが、今回の東日本大震災下での開幕日をめぐる言動からは、その理念が見えなかったのは残念だった。指導力という点で物足りなさも感じた。駐米大使を長年務め、MLBにも知己が多いそうだから、日米でのコミッショナーの権限の差、つまりは日本の球団の壁の厚さに愕然としているのかもしれない。

▽オーナー対コミッショナーの歴史

コミッショナーに権限を“持たせない"のには訳がある。1979年から6年間、コミッショナーを務めた下田武三氏(故人)が飛ぶボールや反発力の強いバットなどの規制、パの指名打者制の日本シリーズ導入、球場の国際規格化―など野球界の慣習にとらわれない改革を次々に断行した。日本の戦後史にも登場するこの大物元外交官に、各オーナーが猛反発した歴史があるからだ。余談だが、下田氏は加藤氏の仲人だそうだ。

▽権限も金もないコミッショナー

根来泰周・前コミッショナーは「コミッショナーには権限も金もない」との捨てぜりふを残した。言わんとするところは、コミッショナーの権限強化と日本野球機構(NPB)の独立・強化だったと思う。かつてのように、巨人を軸とした人気が高かった時と違って、今はプロ野球全体でのブランド力強化を図るべきで、球団個別でやる努力には限界が見えてきた。強いリーダーが必要なのだ。横浜の身売り問題が再燃することも心配材料。最近、大リーグで名門ドジャースが経営難からの監視下に入ったというニュースがあった。身近にはサッカーJリーグが「基金」を創設して組織防衛に務めている。プロ組織なら組織・財政基盤強化は当たり前の話だが、NPBはそうなっていない。

▽王氏は国際化の切り札

今こそ王氏のような指導者の下でプロ野球は国際化の戦略を練り、球界改革に踏み出す時だ。「世界の王」ならMLBや韓国などアジア圏に十分通用するし、なにより国民的人気をバックに球団オーナーと真っ向から渡り合える。巨人から外に出て苦労したことも買える。ただ、かつては裁判官的な役割を期待されたコミッショナーも、近年は最高経営責任者(CEO)的存在が求められている。「王コミッショナー」には、経営の分かるスタッフが絶対必要となる。経営権を盾に各球団の猛反発は必死だが、それに耐えられるのは、王氏のような“頑固者"でないとだめだろう。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。立命館大学卒。スポーツニッポン新聞社記者を経て、70年共同通信社入社。東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆。