全米のボクシング・ファンが、関係者たちが「今年最大の番狂わせ!」と驚愕したのは、さる4月9日のネバダ州ラスベガスの豪華興行「アクション・ヒーローズ」でのこと。

驚かせた張本人は、日本の石田順裕。WBO世界ミドル級4位で27戦全勝(24KO)の強豪を、敵地で破った石田の快挙は、日本でも報じられたが、もっともっと称えられていい。

それほどに、石田に敗れたテキサス州出身の27歳、左強打者ジェームス・カークランド(米国)は、凄い奴なのだ。

「シルバー・グローブ」(10歳~15歳対象のアマ大会)で4年連続優勝。16歳になり、「ゴールデン・グローブ」の出場資格を得ると、当然のごとく、全米大会の決勝へ。五輪米国代表も夢ではない。しかし、不可解な判定で敗れると、134勝12敗の戦績を記録したアマと決別、プロに転向する。これが、2001年8月。

殺傷本能全開で、対戦相手に襲いかかる獰猛なファイトでKO勝利の山を築いたカークランド。当初、彼の指導者は、なんと女性だった。

4階級で女子世界王座を獲得したアン・ウルフ(米国)だ。自らも現役バリバリだったウルフは、2004年5月、バスケットボールの人気者からIBA世界女子ライトヘビー級王者へと華麗な転身を果たしていたヴォンダ・ウォード(米国)を初回KO。病院送りにする壮絶な勝利で、4階級制覇を達成しているが、その時期に教え子のカークランドは、前年に強盗の罪で逮捕され、2年半の刑に服役していた。

出所後、豪快なKO勝利の連続で世界王座挑戦目前も、2009年4月、今度は銃器不法所持で塀の中に逆戻り。しかし、ゴールデンボーイ・プロダクションズは、根強い人気を誇る「倒し屋」の出所を待ち続けた。

期待に応え、カークランドは、3月に組まれた再起戦2試合で軽く連続KO勝利。が、4月9日、豪華興行を盛り上げるべく出場した8回戦で、一階級下の元「暫定」世界王者とはいえ、KO勝利の少なさから非力な技巧派と値踏みしていた35歳の石田のカウンターに転がされ、結果、全米期待の無敗の「倒し屋」が、逆に初回1分52秒TKOで「秒殺」されたのだ。

多くの世界王者を育てた、カークランド陣営のケニー・アダムズ・トレーナーは、試合直後に控室で倒れ、病院へと搬送された。もはや、これは事件だ。(草野克己)