若き天才ボクサーが最短世界王座奪取を目指す。そのとき、識者はつねに辛らつだ。「なぜもっとキャリアを積んでから挑戦しないのか」と。山があるから登山家は挑む。記録があるから、天才選手はそれを超えようとする。

2月11日、井岡一翔(井岡ジム)はプロ7戦目で世界タイトルに挑戦する。一翔はまだ21歳。元2階級制覇王者、井岡弘樹の甥で、アマ時代95勝10敗の好成績をあげ、アマ王座に就いている。

相手はオーレドン・シッサマーチャイ(タイ)。35勝(13KO)1分けと無敗で、もう6度の防衛を果たしている技巧派王者だ。フットワークが速く、相手に打たせないディフェンスの名手だ。

日本の最短世界王座獲得記録は、辰吉丈一郎、名城信男が持つプロ8戦目。9戦目での獲得は、叔父の弘樹と具志堅用高が保持する。井岡が狙うのは日本記録更新だが、世界にはもっとすごいレコードがある。プロ3戦目で王座奪取したセンサク・ムアンスリン(タイ)、4戦目のウィラポン・ナコンルアンプロモーション(タイ)だ。彼らはムエタイの経験者で、国際式での短期頂上決戦に成功した。

井岡はサラブレッドだ。アマ時代からそのセンスに恵まれた攻防は高く評価されていた。プロでも、世界ランカーに勝ち、日本タイトルを獲得して実力を証明している。

なぜ井岡は最短記録を塗り替えようとするのか。第一に、TBSが生中継する通り、話題性がある。第二に、キャリアの早い段階で世界の王座に就くことで、防衛を重ねながら実力を伸ばしていける。その好例は、先述の具志堅、あるいは長谷川穂積だ。第三に、将来、体重を上げ複数階級制覇を狙える。

ものごと表と裏。もちろん、早期世界挑戦にリスクもある。第一に、キャリアの乏しさゆえ、王者の駆け引きのうまさに翻弄される危険性がある。たとえば、パスカル・ペレス(アルゼンチン)に敗れた米倉健志。張正九(韓国)に敗退した大橋秀行など。第二に、過去の早熟世界王者たちは総じて短命政権に終わっている。キャリアを通じた技術の蓄積が小さいのが原因かもしれない。第三に、苦戦の経験が乏しいため、天才挑戦者は一進一退の接戦に弱い面がある。

井岡は、「記録を破るのは僕です」と抱負を語る。王者オーレドンが減量苦のため最近、防衛戦で精彩を欠く。井岡の新記録達成に大いに希望が持てる。(国際マッチメーカー・ジョー小泉)