ボクシングの2010年の年間表彰が決まったが、特筆されるのが最高試合に長谷川穂積(真正)VSフェルナンド・モンティエル(メキシコ)戦が選ばれたことだろう。試合内容は間違いなく世界のトップレベルではあったが、長谷川が痛恨のTKO負けを喫しているからだ。これまで日本人が敗れた世界戦が選ばれることは数少なかった。しかし、今回は圧倒的な票を集めている。それほど素晴らしい好ファイトだった。

世界ボクシング評議会(WBC)バンタム級チャンピオンの長谷川は10度の防衛に成功、揺るぎない地位を確立していた。一方、モンティエルは日本未公認の世界ボクシング機構(WBO)同級王者。破格の強打は高い評価を得ていたが、両者がグローブを交える可能性は低いと見られていた。しかし、長谷川が「強い相手とやり、真のナンバーワンを争いたい」とモンティエル戦を熱望。関係者の努力も実り、10年4月30日、日本武道館で実現した。

異様なほどの緊張感に包まれ、開始のゴングは鳴らされた。スタートからハイレベルの攻防に終始。長谷川がペースをつかんだままラウンドは進んだ。それは一瞬の出来事だった。4回2分50秒過ぎ、モンティエルが左フックからチャンスをつかみ、一気の連打でレフェリーストップがかかった。ほんの数秒のドラマ。「何が起こったんだ!」。会場からは信じられないような声まで飛んでいた。あの長谷川が…。ボクシングの醍醐味が凝縮された「瞬時の必殺劇」だった。

ボクシングの人気低下がささやかれて久しい。その大きな要因の一つが「世界王者の乱造」だろう。世界王者は一階級に一人、という時代は遠い昔の話だ。現在は主要な統括団体が四つもあり、しかも正規王者に加え、スーパー王者、暫定王者まで存在。チャンピオンの権威はどんどん薄らいでいる。その人気低下に歯止めをかけるためにも「王者の権威」を取り戻すことが必要だろう。

長谷川VSモンティエルはその好例だ。WBO王者との事実上の統一戦という高いハードルを超え、多くのファンの支持につながった。日本は世界ボクシング協会(WBA)とWBCだけを公認しているが、ここにきて国際ボクシング連盟(IBF)、WBOの王者との決戦に限り、両団体との交流を認めようという機運が盛り上がっている。関係者の英断に期待したい。(津江章二)