出場選手が限られる最終戦を除けば、ツアー最後の試合となる「大王製紙エリエールレディス」は申ジエ(韓国)の優勝で幕を閉じた。ジエはエリエールで最低単独2位に入らなければ、賞金女王の可能性がついえていた。そんな中で「絶対にあきらめない」と掴んだ勝利の深層を、上田桃子らを指導するプロコーチの辻村明志氏が掘り下げる。

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■難コースとバーディコース。両方で勝てる理由は“裏付けのある”超攻撃的ゴルフ
昨年大会で、テレサ・ルー(台湾)が72ホール最少ストロークとなるトータル24アンダーを叩きだしたように、スコアの伸びるエリエールゴルフクラブ松山。今年も優勝スコアがトータル17アンダーと、バーディ合戦となった。

2打差の2位タイから出たジエは、「先手必勝しかない。6アンダーを目指す」と序盤から攻撃的なゴルフを展開。辻村氏がジエのキャディを務める齋藤優希氏に聞いたところによれば、「18ホール中17ホールはピンを攻めていた。セーフティに行ったのは15番のラフに入れたときだけです」とのこと。その結果、12番までに6バーディを奪う猛チャージ。その後、ボギー2つとバーディ1つで、結局スコアを5つ伸ばして迫りくる鈴木愛を振り切った。

ジエと言えば、ツアー屈指の難コースである小樽カントリー倶楽部で行われた今年の「ニトリレディス」で魅せたような、駆け引きが上手いイメージが強いが、平均バーディ数1位に代表されるように、本来は攻撃的なゴルフが持ち味。「ジエさんは安パイ(安全策)なゴルフはしません。基本は攻め一辺倒です。リスクを負って攻めて行く。そして流れに乗ったら手が付けられないタイプ」。それを支えているのが、類まれなショートゲームとショット力だ。

「アプローチはツアー屈指の技術。高く出せて止められる。だからショットで自信を持って攻めていけるし、外しても大ケガがない。例えば今週で言えば結果的にボギーを叩きましたが、15番で見せたロブショットは、ほとんどの選手が打てない。普通の選手なら転がして奥に抜けている。ましてや女王がかかってる試合。緊迫した中でできる人はほとんどいません」。だからこそ、最後まで攻撃の手は緩めない。2打差がついていた18番でもピンを狙うなど、スタイルを崩すことはなかった。

■申ジエがオンプレーンスイングなのはクラブの通り道が“1つしかない”から
続いてショット力。ジエのスイングの代名詞と言えばオンプレーン(目標方向に対して真後ろからスイングを見た時、ゴルフクラブがアドレス時のシャフトラインとボールと首の付け根を結んだラインに収まる状態)。上げたルートと下ろしてくるルートがほぼブレない。それが彼女の再現性の高さを生み出している。

「何故オンプレーンスイングなのか。それは簡単です。クラブの通るルートがその1つしかないからです。順番に紐解いていくとまずアドレス。これでもか、という位ボールに近づいて手元と体が近く、また、つま先から頭までまっすぐ立っています。重心位置にも注目して見てください。10本の指の上に立って、その指たちで地面をちゃんと掴んでいる。この時点で上体には一切力が入っていません。アマチュアの方は自分のアドレスを見てみてください。手が前に出て体と遠くなっていませんか?そうなれば手が暴れます。背中が丸くなっていませんか?お尻は踵の方へ引けていませんか?そうなるとかかと体重になってしまいます。いずれにしても、オンプレーンのスイングは難しくなります。ジエさんの超オンプレーンは脚の動きでできています。だからこそ、脚で立つ位置が大事なのです」。

「そしてテークバックからクラブを立ててあげて、リストと腕を柔らかく使いながら縦に振り下ろしてボールを高くふかしている。究極の“インサイドイン”のスイングです。一見、後ろから見るとアウトサイドに上がっているように見えるのですが、ジエは体の軸に対して中心に上げています。クラブが外回りしていません。この時、腕に力が入っていれば近いボールを捌けません。野球で例えるなら、インコースに詰まっている状態です。絶対に身体から離れないトップクラスのスイングプレーンを生み出しているのは、ボールとの近さ、綺麗なアドレス、力の抜けた柔らかい腕です」。

■勝負に負けた悔しさはあるが自分に勝てた事の方が大きい
最後に賞金女王争い筆頭の鈴木愛について。優勝すればキム・ハヌル(韓国)の順位次第で最終戦を待たずして決めることができたが、ジエの壁に阻まれた。それでも鈴木に悔しさはあまりないだろうと辻村氏。

「鈴木さんに敗因という敗因はないです。とても良いゴルフをしていましたし、自分のゴルフをやり切れているように見えました。勝負に負けた悔しさはあるが、自分に勝てた事の方が大きい。自分のミスではなく、ただ自分以上にジエさんが良かったということ。彼女の一番の武器であるパターを見ても、一番入りやすいスピードで良い感じで打てている。良い状態で最終戦に行けるのではないでしょうか」。

解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、藤崎莉歩、小祝さくらなどを指導。上田の出場試合に帯同、様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。

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