千葉県にある我孫子ゴルフ倶楽部にて行われた「日本女子オープン」はトータル20アンダーまで伸ばした畑岡奈紗の優勝で幕を閉じた。先週の「ミヤギテレビ杯ダンロップ女子オープン」の李知姫(韓国)に続き、今大会では元世界ランク1位の申ジエ(韓国)、日本1戦1勝のキム・ヘリム(韓国)、世界ランク6位のチョン・インジ(韓国)に全米オープン2位のチェ・ヘジン(韓国)ら世界で活躍する強豪たちに完勝してみせた。そんな圧倒的な強さを見せ続ける18歳の戦いを上田桃子らを指導するプロコーチの辻村明志氏が掘り下げる。

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■猛者達と経験・駆け引き勝負に持ち込まない強さ ジエ、ヘリムらを逆に圧倒
初日の降雨によるコースコンディション不良のため、3日目まで変則日程の中行われた今年の女子オープン。また、スコアの伸ばし合いとなるコースセッティングにより多くの最少スコア記録が達成された。

そんな中、2位と2打差で最終日をスタートした畑岡は、伸ばしあぐねる2位のキム・ヘリム、申ジエらを尻目に小俣裕次朗キャディと定めた「20アンダー」の目標に向けて一人旅。難しいピン位置だったにも関わらずトータル20アンダーまで伸ばし、2位に8打差をつけて圧勝。叩きだした“65”のスコアは第1ラウンドで出したキム・ヘリム(韓国)共に大会の18ホールの最少スコアタイ記録だった。

開口一番「すごい試合でしたね」と辻村氏。口から出てくるのは賛辞ばかりだ。「最終日まで動じず、自信に満ち溢れていました。2位だったジエさん、ヘリムさんとしては畑岡さんが1打差2打差で勝とうとして、“駆け引き勝負”に持ち込んでくれれば、これまでの経験から自分が優位に運べるだろうという思いがあった。ですが畑岡さんは周りを考えず、自分の目標スコアだけを見てプレーしてきたので、2人はとてもやりづらかったと思います。どんどんバーディを獲るものだから、逆に圧倒されてしまった感じでしたね」。百戦錬磨の相手に駆け引き勝負は分が悪いという思いもあっただろう。勝負を自分の得意な土俵に持ち込み、その上でねじ伏せる圧倒的な勝利だった。

■ショット、パットも難しいことはやってない アマチュアも是非参考に
畑岡の強さの秘密をショット、アプローチ、パットとそれぞれを紐解いていくと、行きつくのはどれも“基本に忠実で、難しいことはやっていない”ということだ。

「先週優勝したときも言いましたが、彼女のツアー屈指の飛距離と高さを誇るショットは強靭な下半身と振り切れる上半身の柔らかさから生み出されるもの。脚のパワーを最大限に溜めて、腕をコンパクトにたたみ振り切る。言い換えればフォローにかけて、ヒジは自分の体に引きつけられて、クラブのヘッドは離れていく、いわゆるヘッドが走る打ち方です。ヒジ、ワキが締まっているから体が開かず、体の近くを通る。つまりドアスイングになりません。大振りすればドアスイングとなって、体が開くものですが、しっかりとした軸で回転できて腕をコンパクトにたためています。これは彼女が小学生の時に野球をやっていて、今もバットスイングをしており、クラブを振るということの原点は野球にあるのだと思います。何故なら、今言ったことはは野球のバッティングでも一緒だからです。引退された稲葉篤紀選手や現役の中村晃選手(福岡ソフトバンクホークス)の打ち方を参考にしてみてください。ヘッドが効いていてもワキ、ヒジは絶対締まっていますから。また、今週は先週以上にスイングの重心がさらに低くなっていました。重心が低くなることで、下半身にさらに力が集まり、上体は先週以上に力が抜けてリラックスして振ることができていましたね」

「何よりも一番素晴らしいのは“気持ちよく振り抜く”ことを一番に考えて練習でもコースでもできていることです。スイングチェックをするにしても、スイングの一連の流れでイメージできています。それができている以上は変な方向にはいかないでしょうね。スイングの部分部分をチェックしだすと、スイングに角ができておかしくなってしまいますから。例えばドライバーで言えば、本当の会心のショットはボールに当たった感覚がないくらいのもの。芯で捉えて、ヘッドが加速して抜けていくからインパクトで止まる感覚がない。これが緩い人だとインパクトで止まって当たり負けするようになります。畑岡さんは朝の練習でその日のスイング、調子でいかに気持ちよく振るかを考えて、最高のパフォーマンスをしようとできていますね」

パッティングもかなり良くなっている、と続ける。「特に良い点はまっすぐ構えてまっすぐヒットできること。フォローは小さく、男子プロのようにインパクト後にコツンと止めて終わらせて、フィニッシュで球がカップに入るまでヘッドが動きません。これは下半身の安定、体幹の強さがあるからできること。普通の人ならフォローで体が泳いでしまいます。小さい動きで正確な動きができるからしっかり芯に当たる。打ち出しが小さいから余計な動きが入らないのです」。これは谷口徹や藤田寛之ら名手、と呼ばれるプレーヤーに共通する動きだ。

一息ついて辻村氏は「畑岡さんは何か特別な技術で圧倒的なスコアを出しているわけではありません。もちろん、持っている才能、そして体力など真似できない部分もありますが、アマチュアの方々にも参考にできる部分がたくさんあります」。中でも真似して欲しいと話すのが、イメージの持ち方。

「畑岡さんは打つ前にしっかりと良いイメージを出して、それに向かってやるだけ。まずは良いイメージを描けない人はノーチャンスです。良くありませんか?左のOBを気にしすぎるあまり、左にOBを打ってしまったこと。良いイメージの球を打てる打てないではなく、描いた通りに打つという気持ちで臨めるかが大事です」。アプローチでは必ずグリーンまで足を運び、落としどころだけでなく、動かしどころ、止めどころまでチェックして良いイメージへと結びつけている。

ここまで記載した以外にも畑岡の素直さ、小俣キャディとの息の合った信頼関係、頭の良いマネジメントなど良い点を挙げればキリがない。「先週、日本のトップクラスと言いましたが撤回します。彼女は日本のエースです。今のゴルフをやっていれば必ずアメリカでも勝てます。あとはアメリカでどうやって今の精神状態に持って行くか。そこは彼女の工夫でしょう」

解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子らを指導。上田の出場試合に帯同、様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。


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