宮城県にある利府ゴルフ倶楽部にて行われた「ミヤギテレビ杯ダンロップ女子オープン」はトータル13アンダーまで伸ばした畑岡奈紗の優勝で幕を閉じた。今季序盤米ツアーで苦しみながらも復調し、見事プロ初勝利を挙げた若きメジャー覇者の戦いぶりを、上田桃子らを指導するプロコーチの辻村明志氏が掘り下げる。

畑岡奈紗の“異次元ゴルフ”を写真でプレーバック
■18歳が見せた末恐ろしいゴルフ コースでのアドレナリンを計算できる強さ
ただ1人、2桁スコアを叩きだした畑岡。結果的に2位との差は4打だったが、初日が2オーバーだったことを考えればかなりの数字。そのくらい2日目からは1人だけ異次元のゴルフだった。

「1打、2打差で最終日を迎えた戦いとなれば普通ならここまでの差がつかないものです。それをピンを攻めるという自分のゴルフに徹して自分との戦いを貫けたからここまでの差が開いた。本当にスキがなかったです。この勝ち方は末恐ろしいの一言。この週のゴルフだけを見れば、海外勢を含めた日本ツアーの選手の中でもトップクラスです」。辻村氏も昨年の「日本女子オープン」で優勝したときからの成長を感じたと話す。

続けて「アドレナリンをコントロールできたことも強さの証拠」という。「キャディを務める小俣裕次朗さんから聞きましたが、畑岡さんは練習場では110ヤードの飛距離のPWが、コースではアドレナリンが出るため115ヤード。そして優勝した最終日は123ヤード飛んでいたそうです。裕次朗さんも相当驚いていました。アドレナリンを出せるのはポテンシャルがあるということ。そして付け加えたいのは気合いが入ると飛ぶ畑岡さん自身も分かってるということ。だから慌てないし、マネジメントも間違えない。とてもすごいことです」。ちなみに最終ホールのパー5の2打目は、多少フォローもあったがピンまで219ヤードを3UTで打ってグリーン奥のバンカーに入れていたとか。

キャディのサポートも心強かったのではないかと辻村氏は言う。「実は畑岡さんは最終日の朝の練習ではそこまで調子が良くなかったそうです。それでも裕次朗さんが“朝悪くても試合では関係ない。練習場とコースでは違うから無視していけ”と背中を押したそう。そういった言葉の1つ1つが畑岡さんも心強かったと思います」

■圧倒的飛距離&高さを生み出す下半身の瞬発力とアームワーク 球が“喜んで”上がっていく
畑岡はツアー屈指の飛距離と高さを誇るショットが持ち味。158cmと決して大きいとは言えない体から繰り出す高弾道のショットで、真上からピンにズドンと落とすスケールの大きいゴルフを展開した。

「畑岡さんは瞬間のスピードがすごくある選手。だから大きくない体でも飛ばせるし高い球を打てる。それは強靭な下半身と振り切れる上半身の柔らかさから生み出されるもの。脚のパワーを最大限に溜めて、腕をコンパクトにたたみ振り切る。コンパクトと言っても小さいわけではなく、しなやかで力が入らずに左ワキがしまるので瞬間のスピードがすごくあります。コンパクトだからヘッドが効いてる。打った球がまるで喜んで天に上がっていくかのようです」

練習法にも工夫の跡が見られる。「彼女はよく練習場でバットを振っていますが、あれは“絶対にスイング時に浮き上がりたくない”という思いからでしょう。バットスイングではフォローにかけて沈みこむようにスイングしています。畑岡さんはフォローにかけてジャンプする癖がある。そうなるとコンタクトがズレて打点が狂ったりします。年間王者に輝いたジャスティン・トーマス選手など“ジャンプアップ打法”と呼ばれる人たちがいますが、“伸びあがること”と“ジャンプ”は違います。足で地面を掴んで得た力を蹴ることでパワーに変えるのはOKですが、ジャンプすることで上体が動かされるのはNGです。アマチュアの皆さんが自分のスイングに取り入れる際はお気を付けください」。

また、畑岡は去年の「日本女子オープン」を勝ったときのようにトップを高くすることで調子を取り戻していたと言っていた。その点については「トップを高く、といっても今が極端に高いわけではないですが、インサイドアウト軌道を意識してフラットに振ろうとするあまり、トップが低くなり過ぎていたのではないでしょうか。懐が無くなっていた、と言い換えてもいいでしょう。ある程度のトップの高さが無ければクラブのヘッドがボールにスパンと入って来ません。トップで手元が低くフラットな“ドアスイング”だと、どうしても身体が開きクラブが下から入ってきやすい。上から叩けているうちは良いのですが、懐がなくなって下から入り出すと、極端にインサイドから入ってしまうし、ボールへのコンタクトにもバラツキが出る。特に、畑岡さんは悪い時に右プッシュが出る傾向がありますが、高さを作ったことで良い軌道でヘッドが入るようになってそれも減りました。ドローヒッターの畑岡さんが練習場でカットの練習をするのはそういったところもあると思います。欠点を把握し、工夫した練習ができるのも強さの1つです」

■初優勝に届かなかった永峰咲希 シードが危うくなったことで自分のスタイルを取り戻した
一方、その畑岡と共に首位タイで並んでいた永峰咲希は、初優勝を目指しスタートしたが2バーディ・2ボギーとスコアを伸ばせず。またしても栄冠はお預けとなった。それでも今季初となるトップ5(3位タイ)に入り420万円を獲得。賞金シード圏内となる賞金ランク45位に浮上した。

「永峰さんは今年の序盤からパットに悩んでいる時間が多かったように見えました。その内ショットも悩んでいって本来のショットメーカーの姿が影を潜めているように思えました。そうこうしている内に賞金シードが危うくなったことで、あれこれ悩んでいる場合ではなくなった。そして頭の中を整理して、“今の自分にできること”“自分のスタイル”にしっかりと焦点を絞れるようになったように見えます。そうして自分を取り戻したことが今回の活躍につながったのではないでしょうか。結局まずは心が元気でなければダメ。心が体を動かすからです。技術ばかりにこだわっては良くありません。」

■メジャー第3戦は伸ばし合い?フェアウェイが広く、ラフは短め
そして最後に今週のメジャー第3戦「日本女子オープン」の展望を話してもらった。「最近のメジャーでも有数の素晴らしいコンディションです。フェアウェイ、グリーンの仕上がり共に申し分ありません」と状態は最高だという。

「また、メジャーにしてはフェアウェイが広く、ラフも短めと言うところもポイントでしょう。グリーンには小さなコブがありコンパクション次第で難しくなりますが、スコアを出せる戦いとなると思います。ロースコアではないでしょう。1つ言えるのは間違いなくショットメーカーが有利だということです」

解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。コーチ転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子らを指導。上田の出場試合に帯同、様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。

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