AT&Tペブルビーチ・ナショナル・プロアマでジョーダン・スピース(米国)が2位に4打差を付けて今季初優勝、そして米ツアー通算9勝目を挙げた。

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今季は20歳代の若い選手の優勝が続いているが、スピースの優勝は今日まで無かった。というのも、スピースは昨年10月以降、2016年内は米ツアーの大会に1試合も出なかった。その間、ジュニア時代からの親友であるジャスティン・トーマス(米国)はマレーシアの「CIMBクラシック」で2連覇を遂げ、松山英樹は上海の「HSBCチャンピオンズ」で世界選手権シリーズ初制覇。

暦が2017年になってからのハワイ2試合にはスピースもようやく出場したが、自身は3位に留まった一方で、トーマスは2連勝を達成。そして先週は松山がフェニックスオープン2連覇を達成し、9位に甘んじたスピースは世界ランキングで松山に抜かれてしまった。

以前のスピースだったら、さぞかし焦りまくる状況のはず。だが、ペブルビーチにやってきた彼は、むしろ落ち着いていた。

今大会は本戦もプロアマ形式で回るため、進行はとんでもなくスローになり、アマチュア選手のひどいミスショットにも付き合って、ボール探しもすれば「Fore(フォー)」の掛け声もかける。トッププロにもコントロール不能な喧騒やノロノロ進行も続く4日間の中で、気持ちをそがれることなく、集中力を乱されることなく、どこまで自分と自分のゴルフを維持することができるか。

それは、今大会のみならず、スピースが置かれている現在の状況との戦いそのものでもあり、周囲の動きが激しいからこそ、「自分のペースでやっていく」。その姿勢が今週のスピースに落ち着きをもたらしていた。

スロー進行でイライラしがちなプロアマ形式のこの大会を、逆に自分のために活かすことにもスピースは長けていた。

「僕の調子がいいときも悪いときも、一緒に回るアマチュアが励ましの言葉をかけてくれる。それがすごく励みになる。だからここ数年、僕はこの大会が他のどれよりも好きだと感じていたんだ」
 
技術面から勝因を探れば、スピースは今大会の開幕前、パットの調整に余念がなかった。そして見い出したものは、「あまりストロークのことは考えず、両手がナチュラルに動くようになるまで練習したら、あとはスピードだけを意識してパットする」。

スピードがすべてだ――。そう信じてパットし続けたスピースは、3日目には13回の1パットを含めて合計わずか23パット。最終日は2番でバーディーを奪って以降、なかなかスコアを伸ばせなかったが、17番で長いバーディーパットをようやく沈め、18番も10メートル超のバーディーパットがもう少しで入りそうだった。

周囲に惑わされず、喧騒に乱されず。ようやくスピードが合ってきた。自分のペースがつかめてきた。今回のスピースの優勝は、そんな勝ち方だった。

「毎ホール、(キャディの)マイケルが『よし、退屈なゴルフを続けるぞ』と僕に言った。僕は本当は退屈なゴルフは嫌いなんだけど、言われた通り、退屈なゴルフを続けたんだ」

2014年マスターズに初出場し、いきなり優勝争いをしてバッバ・ワトソン(米国)に敗れたスピースは、あのとき無我夢中で必死で、そこに「スピースのペース」を見て取ることはできなかった。だが、翌年、オーガスタを制したときのスピースは、落ち着いた様子でプレーしていた。

昨年。「グリーンジャケットを返したくない」と駄々っ子のように言っていたスピースは、その想いが強すぎたのか、自分のペースを乱し、躍起になり、そしてアーメンコーナーで崩れた。

その失敗をすでにスピースは省みて、再びグリーンジャケットを羽織るためには自分に何が必要なのかをオフのうちに見極めていたのだと思う。そう考えれば、昨秋からずっと試合に出なかったことも頷ける。トーマスや松山が勝利を重ねる姿を傍目に、落ち着き払った表情で今大会を迎え、そして勝利したことも「なるほど」と思える。

パットが「スピードがすべて」なら、マスターズに向けて調整し、優勝を狙っていく過程では「自分のペースがすべて」だ。

これからの春の数試合、そして今年のマスターズは、スピースが淡々と静かに優勝を狙う姿が見られるに違いない。

文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)