国内女子ツアー「樋口久子 三菱電機レディスゴルフトーナメント」最終日に“66”をマークし、逆転優勝を飾った申ジエ(韓国)。“ファイナルラウンドクイーン”の異名に違わぬ強さをみせつけたわけだが、フェアウェイが広く“飛ばし屋が有利”とされる武蔵丘ゴルフコースでドライバーの平均飛距離が235ヤードのジエが勝った理由をツアープロコーチの辻村明志氏に解説してもらった。

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■ オンプレーンスイングを生み出す“身体と腕の同調を意識したルーティン”

 辻村氏が語るジエの凄さは、単純なティショットのフェアウェイキープ率の高さではなく、2打目を想定した打ち分けが完璧に実行されている点。

 「フェアウェイキープ率を聞いたのですが、初日が14回中14回、2日目が14回中12回、最終日も14回中14回。3日間のキープ率はなんと95%。確かにフェアウェイは広いのでキープがしやすいのは確かですが、ジエ選手はセンターだけではなく、右サイド、左サイドにも打ち分けて、セカンドショットを打ちやすいアングルに置いていました。飛ばし屋が有利といわれるこのコースで勝てた大きな理由はその“恐ろしいまでの精度”でしょう。今年の硬くて速いグリーンでも、フェアウェイからならチャンスにつけられる確率はグっと上がりますからね」。

 “飛ばないけど、確実に自分の落としたいところに落とせる”という、ほかの選手と一線を画す精度は“超”オンプレーンスイングから生まれると辻村氏。身体と腕の同調を意識したルーティンが正確さの源になっているとか。

 「2つの拇指球の上で立って、お尻をすっと上げたシンプルなアドレスが特徴。打つ前には必ずシャドースイングをしますが、手首を使って体の右前面でクラブを立て、また左前面でもクラブを立てるようにV字を描くように振るんです。そして本番ではそれに体の回転を合わせて振る。リストワークと体の回転が完全にマッチすると、綺麗な円を描くスイングになる。“超”がつくぐらいオンプレーンになるんです。彼女はスイング中、クラブが身体から離れません。ボールへのクラブの入射角が正確なので、スピンも正しくコントロールできるんです」。

 またウェッジワークの巧みさもジエの強さ。「9番パー5でジエさんのイーグルを見ていました。75ヤードを直接カップインさせていましたよね。あれで流れを完全に自分に引き込みましたよね。グリーン周りもスピンコントロールも素晴らしい。ショット以外でもスピンコントロールはとても重要です。チップショットで状況に応じて、球足(※コロがし)を使うか使わないか、などの引き出しも豊富ですよね」。飛距離はなくとも正確性と寄せの技術ではジエの右に出るものは、国内ではそうはいない。

■ キャディに聞くことは2つだけ

 ジエは平均バーディ数1位につけているが、ショット、アプローチの精度に絶対の自信を持った上での“強気のマネジメント”が大きな理由。辻村氏がジエのキャディを務める佐々木裕史氏から聞いたところによると…

 「例えば残り180ヤードの2打目だったら、ジエさんは“エッジまでの距離”と“そこからピンまでの距離”、この2つしか聞かないそうです。それを把握した上で打つ必要なキャリーを決める。他の余計な情報は一切頭に入れない。基本的ピンに届かない番手は持たないのは相当の自信の表れ。バーディ数1位なのはこの部分が大きいでしょう。それもこれもショートサイドや奥に外した時にも寄せられる技があってこそできるこそですけどね」。

 この優勝でジエの今季の目標、賞金女王が視界に入ってきた。「今のモチベーションは完全に日本の賞金女王。アメリカでも女王になり、ロレックスランキングでも1位に。韓国ツアーでも女王になっていますので“日本ツアーでも”といいう思いは強いでしょうね。とはいえ差はまだ3千万円あります。昨年勝った最終戦のリコーカップまでにどの程度差を縮められるかが勝負のポイントとなるでしょう」。終盤戦に向けて10日間の合宿を張ってトレーニングをするなど、今季にかける思いは強い。首位を走るイ・ボミに3試合でどれだけプレッシャーをかけられるかも重要だ。

■ 比嘉真美子は完全復活に近づく!?

 最後に、辻村氏がこの試合で一番喜ばしいことだと感じた比嘉真美子の2年ぶりのシード復活についても語ってもらった。

 「やっと比嘉さん本来のプレーが戻ってきましたね。いまはスイングに自信を持てている表情をしているし、スタンレーレディスの2日間で彼女のプレーを見ましたが“もう完全に調子を戻したな”というプレーをしていました。結果は予選落ちでしたが内容は素晴らしかった。球筋も安定してましたしマスターズGCレディース2日目には“65”をマークしたことで、さらに自信をつけ、終盤戦の大事な時期に今季ベストフィニッシュの3位でシードを決める。非常にいい流れに乗りましたね。

 彼女はスイング中に力の入るタイミングが早かったんです。球が曲がる時は、無意識に曲がらないようにとスイング中に力を入れてしまう人が多い。彼女も力が入りすぎていましたが、いまはボールを打つまでの無駄な力がなくなりました。スパーン!という音が球の先に響きだしましたね。ボールを打ち抜いた後に力が入っていて、とてもいい状態です」。

 デビュー年に2勝した大器の完全復活、今後の活躍にさらに期待が集まりそうだ。


解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。コーチ転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、濱美咲らを指導。今季は上田の出場全試合に帯同、様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。

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