カナディアンオープン最終日。大観衆が例年以上に興奮気味だった理由は、おそらく2つほどあったのだと思う。

開幕まであとわずか!リオ五輪日本代表ユニフォーム
 まず1つは、リオ五輪が近づいてきたこと。ゴルフが最後に五輪で競われた112年前、米国セントルイスで開催された1904年大会で金メダルを獲得したのはカナダ人だった。同大会にエントリーしたのは米国人74人、カナダ人3人。そして毎日36ホールの個人マッチというタフな戦いを最後まで勝ち抜いたのが、名前からしてタフそうなカナダ人、ジョージ・ライオンだった。

 そして今年。「カナダ人はゴルフの金メダルが再びカナダのものになることを切望している」と教えてくれたのは、先週の全英オープン会場で出会ったPGAツアー・カナダのオフィシャルだった。

 カナダの五輪代表選手はグラハム・デラエとデビッド・ハーンだが「2人とも世界ランキングは低迷していて全英には出場できず、グラハムは今、チッピング・イップスに苦しんでいる。それでも2人ともリオに行くし、国民も2人を応援している。なにしろカナダはゴルフシーズンとホッケーシーズンの2つだけで1年が構成されている国だからね」とオフィシャルは笑いながら説明してくれた。

 カナダが誇る金メダリストのライオンは、カナディアンアマ8勝、全米アマでは2位。そして、このカナディアンオープンでも勝利を挙げて金メダルに母国のナショナルオープンタイトルを加えようと必死だったそうだが、ついに優勝は叶わず、2位どまりとなった。
そのライオンの悲願を代わりに達成するかもしれないカナダ人アマチュアが今大会に彗星のように現れたことが観衆を興奮させていたもう1つの理由だった。

 カナダで生まれ育ったジャレード・デュトワは現在、米国のアリゾナ州立大学に籍を置く4年生。そのデュトワが3日目を終えて2位タイに浮上すると、カナダの人々は1954年以来のカナダ人によるカナディアンオープン優勝に期待を膨らませた。

 「まだこれは僕の出発点にすぎない。勝ち負けより、この雰囲気の中で自分のゴルフができるよう頑張りたい」と笑顔で語っていたデュトワは最終日も落ち着いた戦いぶりだった。しかし、“先輩プロ”たちの快進撃により、9位へ押し下げられた。カナダ人がナショナルオープンを制覇する62年ぶりの悲願は叶わなかったが、カナダ人が五輪で金メダルに再び輝く112年ぶりの悲願は一層強まったのかもしれない。
 
 今大会で勝利したのはカナダ人ではなくベネズエラ人のジョナサン・ベガスだった。最終日にスコアを8つ伸ばす驚異の快進撃で米ツアー通算2勝目を挙げた。
 
 ゴルフがほとんど知られていなかった母国を離れ、米国のテキサス大学へゴルフ留学した当時のベガスは英語がわからないどころか、ゴルフシューズを履いたこともなく、歯医者の存在すら知らずに歯痛で顔を腫らせていたという。そんなベガスがプロになり、米ツアーに辿り着き、ルーキーイヤーの2011年に早々に初優勝を挙げたのは奇跡的。
 
 しかし2年後、肩を痛めてシーズン半分を棒に振り、以後もなかなか成績が上がらず、シード落ちも経験。今季もフルシードが無い状態でなんとか米ツアーにしがみ付き、調子は少しずつだが上向きつつあった。
 
 世界ランキング203位で臨んだ今大会。この優勝で来週の全米プロへの最後の切符を手に入れた。それは今年初めのメジャー出場になる。そして来年4月にはオーガスタにも戻れる。
 
 今年のカナディアンオープンはまたしてもカナダ人の悲願は叶わなかったが、その代わり、ベネズエラ人の悲願、ベガスの悲願がようやく叶った。

文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)

<ゴルフ情報ALBA.Net>