思えば、昨年の暮れごろまでは、リオ五輪を辞退する選手がそれから半年の間にこれほど増えることになろうとは想像もしていなかった。


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 だが、今年の春ごろから現地で蔓延するジカ熱が報じられ、一番に辞退を表明したのはフィジーのビジェイ・シン。続いて、オーストラリアのアダム・スコットがタイトなスケジュールを理由に辞退を発表すると、マスターズ後は南ア勢が辞退を伝え、現地の治安悪化のニュースが日に日に増えつつある全米オープン前後には辞退が続出。先週は日本の松山英樹も、ついに辞退の意志を表明した。
 
 それからも辞退者はさらに増えているのだが、その中で、これまでの辞退者からは聞かれなかった辞退の理由を示したのは、ジンバブエのブレンドン・デヨングだった。

「僕には米ツアーの3試合を休んでリオ五輪に行けるほどの余裕がない」

 デヨングが言った「余裕」の意味は、経済的、あるいは時間的、体力的余裕ではなく、「ポイントの余裕」を指していた。現在、彼はフェデックスカップランキング160位。来季の米ツアー出場権を維持するためには、残り少ない終盤戦でポイントを稼ぎ、125位以内に入らなければならない。

 リオ五輪に出るとなれば、移動や疲労を考慮した場合、トラベラーズ選手権、ジョンディア・クラシック、ウインダム選手権の最大3試合を犠牲にすることになるのだが、「自分にはそんな余裕はない。五輪でメダルと栄誉を目指している場合ではない」と判断。米ツアーの終盤戦に出てポイントを稼ぐ道を選択したというわけだ。

 デヨング以前に五輪出場を辞退した選手たちの間から、デヨング同様の理由が聞かれなかったのは、言うまでもなく先の辞退者たちはすでにシード安泰の選手たちばかりだったからだ。だが、「目の前の試合を優先したい」「現在の立場や環境こそが大事」と考えることはプロゴルファーとしては当然の姿勢。デヨングが示した理由は、ある意味、プロとしての基本形と言えるのかもしれない。

 しかし、その一方で、五輪出場を切望する選手たちの声にも耳を傾け、リスクをおかしてでも五輪に出ると決意している彼らの意志も尊重すべきであろう。

 メジャーチャンプであるチャール・シュワーツェルやルイ・ウエストヘーゼン、さらにブレンダン・グレースもその後に辞退したことで五輪行きの切符を得ることになった南アのジャコ・バン・ズィルは「心身ともに万全に備えてリオに行こう」と決意。そのために、せっかく出場権を手に入れていた今週の全英オープンと次なる全米プロを欠場することを決めた。

 米国の代表候補の中でただ一人、早いうちからリオ五輪に「100%出る」と公言しているバッバ・ワトソンは、すでに養子縁組によって2人の子供を授かっていることからジカ熱に対する不安は「他選手たちよりはるかに少ない」。かつてバスケットボール選手だった妻のアンジーが五輪にぎりぎりで出られなかった過去の経緯にも触れ、「五輪に出たくて出られなかった妻のためにも、五輪に出られる僕は出たい」。

 ワトソンは自身がプレーするとき以外は他競技の観戦を家族やチームで楽しむ予定で、すでにバスケットボールやハンドボール、フェンシングなどのチケットも購入済みだ。

 世界のゴルフ界には、いろんな選手がおり、いろんな価値観と考え方に基づいて、それぞれに結論を出していく。このコラムがみなさんの目に触れる前後にも五輪辞退者はさらに出るかもしれないが、出場辞退にまつわる騒動の余波が良からぬ方向へ向かうこと、禍根を残すことだけは何としても避けたい。

 今週は全英オープン。すべての選手がすっきりした気持ちでロイヤルトゥルーンに全力で挑めることを願っている。

文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)

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