ツアー選手権最終日。ジョーダン・スピースが72ホール目でパーパットを沈め、大会制覇と総合優勝を決めた。2位に4打の差をつけた余裕の勝利。今季5勝目、通算6勝目。相棒キャディのマイケル・グレラーと歓喜のハグをしたときも、駆け寄ってきた妹エリーを受け止め、肩を抱きながら歩いたときも、涙に濡れる感動のシーンは無かった。

笑顔でトロフィを掲げるジョーダン・スピース
けれど、そんなスピースが表彰式になって、ほんの一瞬だけ涙を見せた。「プレーオフシリーズに入った途端、いきなり2週連続で予選落ちしましたね。あれは一体、何がどうなっていたのですか?」そう尋ねられたスピースは、それまでの笑顔を真顔に変えて答え始めた。

「あのときの僕は、とてもフラストレーションが溜まっていたんです。ジェイソン・デイの独壇場になって、僕は世界一からも転がり落ちて……」そこまで言ったとき、スピースの目に、ほんの一瞬、涙が溢れた。

今季はバルスパー選手権優勝を皮切りに、マスターズ、全米オープンを制し、年間グランドスラム達成という大きな夢を世界中のゴルフファンに抱かせた。ジョンディアクラシック2連覇を果たした翌週、全英オープに挑み、残念ながら惜敗に終わったものの最後まで優勝争いに絡み、セント・アンドリュースを沸かせた。

シーズン最後のメジャー、全米プロでも優勝争いを演じ、ウイスリングストレイツで2位になったことで世界ランキングは頂点の1位へ。そうやって彼は猛スピードで走り続けてきた。

プレーオフ第1戦、第2戦の連続予選落ちは、ずっと走り続けてきたスピースが初めて躓いたショッキングな挫折。そして、大いなる屈辱であったことを彼の一瞬の涙が物語っていた。

ドイツ銀行選手権で予選落ちを喫したとき、スピースは「メンタルエラーだと思う。どうするべきかを、これから1週間、考えたい」と言って去っていった。

1週間のオフを経て第3戦のBMW選手権にやってきたときは「今週は予選落ちが無くて良かった」などと冗談が口にできるほど穏やかな表情になり、心静かに戦って13位になった。

そして今週の最終戦。単独首位に浮上した3日目の夕暮れに、スピースは「今年はすでに素晴らしいシーズンだった。明日の最終日は要らないぐらいだ。明日の結果がどうであれ、僕の今季は最高だった」と言っていた。

けれど、いざサンデーアフタヌーンの1番ティに立ってみると、若きアスリートの心はどうしたって逸り、勝利へと先走った。5番、6番で2連続ボギーを喫し、ヘンリック・ステンソンに並ばれた。その直後。7番ティでキャディのマイケル・グレラーが落ち着きのないスピースをたしなめたのだそうだ。

「中盤は判断ミスもいくつかあったし、そもそも僕はラウンド途中で試行錯誤しすぎて自分でトラブルに陥りがち。でも、あのときマイケルは『すでに起こってしまったことを、あれこれ口にするのを、もうこれ以上、聞きたくない』と言った。それがカギになった」

グレラーの一言で我に返り、心を落ち着かせたスピースは、8番、9番で2連続バーディーを奪い、11番(パー3)のロングパットを沈めてさらなるバーディー獲得。そうやってスピースとグレラーは勝利への扉を開いた。

「今日は、いやいや今週は、ショットは決して良くなくて、フラストレーションばかりが膨らんでいた。でも、勝つためには、まず自分自身に勝たなくてはいけない。自分の感情に勝たなくてはいけない。メンタルバトルに勝たなくてはいけない。それを今週、マイケルが僕に教えてくれた」

スピースの歩を止めるものは、彼自身の心。フラストレーションこそは最大の敵。その敵さえ征服すれば、勝利は自分のものになる。「18番ティでマイケルが『この勝利はキミが心でつかんだ勝利だぞ』って言ってくれたんだ」

史上最年少でツアー選手権を制し、総合優勝に輝いたスピースは、そうやって毎日毎週、新しいことを学びながら成長しているからこそ、ファンからも温かく見守られ、愛される。ジョーダン・スピースは“アメリカの息子”――そんな呼び名が生まれつつある。

文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)

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