米ツアーのプレーオフ第1戦、バークレイズは、いろんなことが起こった大会だった。開幕前は、ジェイソン・デイが自分の転戦用の豪華バスで重い箱を動かそうとして腰を痛め、MRIを受ける事態へ。プロアマ戦は欠場せざるを得ず、一時は本戦出場も危ぶまれたが、なんとか出場でき、デイ自身も関係者も胸を撫で下ろした。

トロフィを掲げるジェイソン・デイ PGAツアーフォトギャラリー
「重い箱の中身は全米プロの優勝トロフィーだった」なんて笑い話まで飛び出し、いざ試合が始まると、デイは腰を痛めた一件を人々に忘れさせるかのごとく、着々と順位を上げていった。

3日目。同組で回ったデイとベ・サンムンが、どちらも7つスコアを伸ばし、そろって首位タイへ浮上した。それは偶然の出来事のようで単なる偶然ではないのだと、デイが説明してくれた。「サンムンの集中力は凄かった。その凄い何かが僕の中に流れ込み、僕の集中力も高まった。そういう現象は間違いなく起こりうる」

韓国の徴兵制度にのっとって、間もなく兵役に就くことが決まっているべ・サンムン。「プレーオフが終わったら、韓国に帰ります」。そして2年間の兵役を終えたら彼は再び米ツアーに戻ってくる。だが、2年のブランクを取り戻すのは、きっと大変になるだろう。せっかく上り調子の今、ツアーを離れざるを得ない厳しい現実。一緒にプレーしながらデイが感じ取ったものは、べが胸の奥底に抱いている断腸の想いだったのだろう。

デイはデイで、不注意から腰を痛めた出来事や断続的に走る痛みを乗り越えつつ、好プレーをしようという想いを抱いていた。今年の全米オープンでは2日目に持病のめまいで倒れながらも3日目は首位に立ち、優勝争いに絡んだ。全英オープンでは惜敗して悔し涙を流したが、悔しさを晴らすかのように翌週のカナディアンオープンで勝利を挙げ、続く全米プロでも勝利。そして今週は腰を痛めながらも3日目に首位タイへ浮上。そして最終日は8アンダー、62をマークして圧勝した。

厳しい現実。心身の故障。何か大変なことに直面しながらも、それを乗り越えようとするときに、時として不思議な力が芽生えるらしい。兵役目前のべ、腰を痛めたデイ。そして、彼らと2打差の4位で最終日を迎えたライアン・パーマーもそうだった。

バークレイズの前週に実父が交通事故で他界したばかり。が、パーマーは悲しみのどん底にありながらも出場する道を選んだ。

「父は僕が9歳のときからゴルフを教えてくれた。とても悲しいけど、僕が試合に出ない決断をしたら父は喜ぶはずがない。父は僕の優勝(通算3勝)を一度も目の前で見ることなく天国へ行ってしまったけど、今週は、僕の一歩一歩、一球一球に父が寄り添っている」

だから、すぐそばにいる父に、いいプレーを見せたい。優勝したい。そうやって悲しみを乗り越えようとしていたパーマーにも、不思議な力が備わっていた。

最終日。デイの独走に追い付く者はいなかった。べとパーマーはどちらも6位に終わり、ひっそり涙を流していた。

デイを捉え、逆転優勝を狙っていた松山英樹は、スコアを落とした前半で「厳しい」と敗北を認め、13位に甘んじた。次戦進出を目指した石川は焦りが出た後半に崩れて66位。彼の今季は今週で終わりになった。

2位に6打差で圧勝し、通算6勝目、年間4勝目を飾ったデイ。彼だけが突出したのは、なぜか?少なくとも、技術の差だけではないはずだ。

「今週、ドライバーは一度も思い通りに打てなかった。でも、たとえ何が起ころうとも、とにかくポジティブであり続け、前進し続けること。カナダ、全米プロ、バークレイズの3試合を、僕はそうやって勝ち取った」

言うまでもなく、べもパーマーも松山も石川も、誰もがみな必死に前を向こうと頑張っていた。だが、デイは、いつなんどきも、さらにポジティブに物事を受け止め、ゴルフに向き合う方法を、複数のメンタルトレーナーの指導の下で身に付ける努力を、すでに何か月も積んできた。

「すべての努力がようやく報われつつある」

不思議な力と地道な努力がデイを高い位置へ押し上げた。

文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)

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