悪天候で進行が乱れ、大荒れだった今年の全英オープン。いろんなことが起こった5日間は長かった。だが、本当のドラマはもっと長くて壮大で、セント・アンドリュースで見たものは、その一部。ずっと以前から始まり、まだまだ続いていく長編ドラマのほんの一部だったのだと思う。

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 初日から人々の視線を集めたのはメジャー大会でお馴染みの顔ぶれだった。今年のマスターズと全米オープンを制し、メジャー2冠になったジョーダン・スピース。メジャーで勝てそうで勝てず、だからこそメジャー優勝を渇望しているダスティン・ジョンソン。6月の全米オープンで最後まで勝利を競い合った2人が、この全英オープンで同組でまわりとなり、揃って好発進した様子は、まさにドラマの「つづき」だった。

 スピースとジョンソンは、しばしば肩を並べ、言葉を交わしていた。だが「全米オープンの話はしなかった」とスピースは言った。それは、勝った男が負けた男にひっそり見せる気遣い。目前まで迫ったメジャー優勝を、あと一歩で逃してしまう悔しさを知っているスピースだからこそ、自然に滲み出た優しさだった。

 ジョンソンのメジャー惜敗は、どうしてこんなにも続くのだろう。首位を快走していたのに大崩れしたペブルビーチ。72ホール目にバンカーをバンカーと認識できず、ソールして罰打を食らい、プレーオフ進出を逃したウイスリングストレイツ。先月のチェンバーズベイでは72ホール目に3パットした瞬間、掴みかけていた優勝をスピースに譲る形になった。「チェンバーズベイでは落ち込んだわけじゃない。僕はすごくいいプレーをした。あのグリーン上では、僕が目論んだコロがりではなく、グリーンが目論んだコロがりをした。だから僕にはコントロールのしようが無かった。それだけのことさ」。 

 気持ちを切り替えてセント・アンドリュースに挑み、首位発進を切った。だが決勝ラウンドでは75-75と崩れ、フェードアウト。緊張と集中の糸がひとたび切れたら、転げ落ちるのは早い。この先、彼にはどんなドラマが待っているのか。惜敗をまだまだ繰り返すのか、それともいつかは報われるのか。

 ドラマの今後の展開に想像を巡らせるとしたら、ジェイソン・デイの今後も気になって仕方がない。チェンバーズベイでは最終日最終組が確実という状況で持病のめまいに見舞われ、3日目の18番で倒れ込んだデイ。「カップからボールを拾い上げるときも下を向かないようにしていた」というほどの吐き気に耐えながら戦った最終日は「戦い終えることができてハッピー」。

 体調が回復して挑んだこの全英オープンは「完走」ではなく勝利を目指した。「オーストラリア人初のマスターズチャンプになる夢はアダム・スコットに持っていかれたけど、ここではクラレットジャグに偉大なるグレッグ・ノーマンに次いで名前を刻むオーストラリア人になることを目指す」

 最終日。1つ伸ばせば、プレーオフ進出という状況で迎えた上がり3ホール。16番の8メートルのバーディパットはカップに届かず、パーだった。激しい雨に見舞われた17番はグリーン手間からパターでコロがし上げ、1メートルを沈めてパーを拾うのが精一杯。

 そして72ホール目。6メートルのバーディーパットがカップにぎりぎり届かず、グリーン上に留まった瞬間、デイの目から涙が溢れ出した。

 聖地、セント・アンドリュースには「オールドレディ(old lady)」が棲んでいると言う。オーガスタの魔女にも、チェンバーズベイのモンスターにも、セント・アンドリュースのオールドレディにも微笑んではもらえなかったデイ。いい加減、泣きたくもなるだろう。だが、彼はそれでもすぐに前を向いた。

 「最後は1打差だったけど、それは戦いのほんの一部。一場面にすぎない。もっと早くに数打伸ばしておかなきゃいけなかったんだ。今日はピンを捉えるのが厳しい一日だった。勝てなかったのは残念。でも僕はいいゴルフをした。最後のパットも、いいパットができた。そこには、がっかりしていない。自分にとって最高のゴルフをすることこそが永遠の目標。『僕の日』は、きっとすぐにやってくる。それまでの我慢だ」

 ザック・ジョンソンがメジャー2勝目を挙げた全英オープン最終日の夜。勝者に拍手を送る心の中で、メジャーで惜敗を繰り返すグッドルーザーたちにひっそりとエールを送った人は多かったに違いない。

文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)

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