ほんの数年前まで「ベイヒル」「アーノルド・パーマー招待」と言えば、それはイコール、「タイガー・ウッズの独り舞台」のようなものだった。

 ウッズが戦線離脱している中で迎えた今年の大会はローリー・マキロイが開幕前からの最大の注目選手だった。だが、マキロイはかつてのウッズのような独り舞台を演じることはできず、世界ランク1位にしては平凡な11位という順位で終わってしまった。

マット・エブリーがトータル19アンダーで連覇を達成
 初日と2日目に首位を突っ走ったモーガン・ホフマンは、米ツアー未勝利の無名に近い選手だ。そのホフマンがそのまま逃げ切り優勝したら、まさにシンデレラ物語だった。が、難コースのベイヒルでホフマン初優勝を阻止しにかかったのはヘンリック・ステンソンだった。

 3日目に単独首位に躍り出たステンソンに、米メディアが意地悪な質問をした。「米ツアーでは、3日目に首位に立った“54ホール・リーダー”が誰一人として優勝できないという傾向がここ8試合で続いている。キミはその傾向をどう見る?」

 ステンソンは即座に答えた。「それは首位に立ったヤツらが優勝できるだけのプレーを誰一人として、しなかったってことだろ?」そう言い終わって、ステンソンはハッとした表情になり「今、僕、あんまりいい顔してないよね」と、思わず苦笑。「明日、僕がその傾向を変えてみせる。そうできる保証はないけど、とにかく僕が精一杯のプレーを心がけることで、現在の米ツアーが昔より厳しい戦いになっていること、より多くの選手に優勝のチャンスがあることの実証はできるはずだ」

 最終日。蓋を開けてみれば、優勝したのはステンソンでもホフマンでもなく、ステンソンから3打差でスタートしたマット・エブリーだった。ステンソンは1打差で惜敗し、54ホール・リーダーは勝てない傾向を「変えてみせる」どころか、さらに強調する結果となった。

 世界ランク3位のステンソンが精一杯のプレーで勝利を目指しても、世界ランク96位のエブリーに逆転されて敗れるのだから、ステンソン自身が言っていたように、彼の惜敗は昨今の米ツアー選手たちの「格差」が縮小し、いつ誰が勝っても不思議ではない戦国時代と化していることを実証する形になったと言っていい。

 予選2日間のヒーローだったホフマンは世界ランク137位で同大会に臨んだ。最終的には4位に甘んじたが、優勝争いに加わっていた誰かの何かがほんのわずかでも違っていたら、ホフマンが優勝を飾った可能性は大いにあった。世界ランク132位で臨んだ石川遼にだって、優勝は厳しいとしても上位フィニッシュするチャンスは大いにあったし、世界ランク16位の松山英樹の優勝の可能性は今大会のみならず彼が出場する毎試合でも十分にある。技術面、メンタル面を含めた総合力において選手間の差がどんどん縮まっている昨今は、世界ランクが示す意義も世界ランク3桁の選手と1桁の選手との差も縮小傾向にある。

 米ツアー選手であれば、誰もが勝利への渇望を抱いている。だがあるとき、ある大会を制する選手は、そのとき、そこにいる選手の中で誰よりも勝利を得るための努力を多く続け、誰よりも強烈な戦意を胸に秘めながらその大会にやってきて、そして、その場で誰よりも優勝への巡り合わせに恵まれた人だ。

 エブリーは昨年のパーマー招待の覇者だが、その優勝によって初出場した去年のマスターズでは惨憺たるプレーで予選落ちし、ひどく惨めな気持ちになったそうだ。「去年は戦えるだけの力がないのに出場資格を得て出てしまった。上海で出たHSBCチャンピオンズのときも、ひどいプレーしかできず、恥ずかしかった。一緒にプレーした世界のトップたちは僕のことを『コイツ、一体どんな資格でここに出てこれたんだ?』と呆れて見ていたと思う。だから僕は戦えるだけの力を付けた上で、そういう大舞台にどうしても戻りたかった」

 この1年、かつてのウッズのコーチ、ショーン・フォーリーからスイングを学びながら練習に取り組んできたという。そして大舞台に戻るための絶好のチャンスとなったのが、ディフェンディングチャンプとして迎えた今大会だった。

 「ヘンリック(ステンソン)がパットを外したとき、僕の頭にまず最初に浮かんだのが、オーガスタだった」優勝すれば、オーガスタ。勝って、もう一度、オーガスタに戻り、今度こそ自らの手であの惨めさを晴らし、雪辱を―。そんな「やってやるぜ!」の精神を誰もが抱いている戦国時代。ランク下がランク上を倒す“下剋上”は、あっちでもこっちでも次々に起こる。戦いは激化するばかり。

 米ツアーはそんな時代になりつつある。

文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)

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