キャデラック選手権の舞台、トランプ・ナショナル・ブルーモンスターを藤田寛之は一人淋しく回っていた。ツーサムになった土日、最下位ゆえに奇数であぶれて弾き出された藤田は、早朝からたった一人のラウンドになった。

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「何が寂しいって、一人は寂しいです」

 昨春に発症した肩痛が1年も尾を引いた状態で今大会にやってきた藤田。自分の肩が果たして試合というものに耐えうるものなのかどうか、日本の開幕に向けて調整していくことはできるのかどうか。自分自身の未来を見極めるために、今大会では4日間の完走を目指そうと彼は心に決めていた。

 スコアや順位は追求しないと割り切っていたが、初日は3オーバー、75で回ったものの、2日目は11オーバー、83を叩いて最下位に落ち、3日目は6オーバー、78、最終日は7オーバー、79。最下位から抜け出せないまま続けた一人旅は、冷たい風雨の中で寂しさを極めた。

 ブルーモンスターは米ツアー屈伸の難コースだ。体調万全で臨んだ世界のベストプレーヤーたちでさえ苦悩し続け、ローリー・マキロイが思わず3Iを池に投げ捨てるほどイライラを募らせたのだから、故障を抱えた藤田のオーバー数が膨れ上がっていったのは、いわば当然の成り行きだった。

3日目の朝。メディアセンターで米国人記者が半ば驚いた顔をしながら話しかけてきた。「フジタは、こんなに叩いているのに、なぜ棄権しないんだ?今から棄権しても賞金はもらえるんだし、もうやめちゃえばいいのに、どうして彼は棄権しないんだ?」 肩を痛めているから実力発揮は到底できないのだと、彼の事情をあれこれ説明したら、「それなら、なおさら棄権したらいいのに」と、その米国人記者は最後まで不思議そうに首を傾げた。

 だが、その一方で、コース上には藤田に熱い声援を送り続ける熱狂的な日本人ファンの一団がいた。日本人が大勢住んでいるロサンゼルスやNYのような大都市周辺ではなく、フロリダ州マイアミでこんなに熱狂な日本人ファンが、最下位の藤田に付いていた光景は、先の米国人記者が目撃したら、さらに首を傾げただろう。

 熱狂ファンは、みな30〜40歳代。藤田を小走りしながら追いかけ、一打一打を食い入るように見つめ、藤田がバンカーからうまくピンに寄せると万歳しながら拍手を送っていた。

 ラウンド後も、その日本人ファンの一団はフェンス越しから藤田へ無言のラブコールを熱い視線で必死に送っていた。それを藤田に伝えると、「ホントに自分のサインを欲しがっているんですかねえ?もし求められてないのに、こっちから近寄って行っちゃったら恥ずかしいですもん」。そう言いながらも、結局、藤田は彼らのところへ足を運び、言葉を交わし、記念写真に収まった。

「(最下位の)こんな自分をああして応援してくださるのは、ホント、ありがたいです」

 肩がどんなに痛くても、藤田が日本の昨季を最後まで戦い続けたのは「賞金王がかかっていたから」。その後、50日以上もスイングできなかったというのに、それでも彼をこの場へ駆り立てたものは「世界の舞台を踏みたかったから」という選手としての意欲。

 痛みが肘や手首まで広がった初日には棄権を考えた瞬間もあった。痛みをこらえ、たった一人の寂しいラウンドと最下位の屈辱に耐え、それでも棄権しかなかった背景には、ファンの期待に応えたいという彼のプロ意識。

「昔、自分が若かったころは、自分のためにだけゴルフをしていれば良かった。でも年を取るにつれて、周りのサポートがあるからこそ自分が頑張れるということに気付いた。最近は同世代から『頑張れ』って言われるので、歩みを止めるわけにはいかないなと思う。自分がいいプレーを見せたとき、ファンが喜ぶ顔を見たいという気持ちが強くなる」

 そんな藤田の謙虚な姿勢が熱狂ファンを引き付ける。それが彼の根強い人気の秘密なのだろう。彼の人柄を知れば知るほど、同じ日本人として「頑張れ」と言いたくなる。

 ただし、それは藤田の事情を事細かに見知ることができる同じ日本人だからこその話であることも事実だ。試合に出れば、やっぱり選手は結果を出してこそナンボだ。前述の米国人記者のように、世界の人々は選手の事情ではなく結果を眺める。「事情」は知る人ぞ知るものだけれど、「結果」は誰の目にも見えてしまう。もちろん、それを一番痛感していたのは、寂しい一人旅を強いられた藤田自身だった。

「練習してないと、こんなになっちゃう。ここまで(自分がいいゴルフを)できなかったのは寂しい。(試合に出れば、どうしても)結果は出てしまう」

 望むらくは、日本人選手の事情を何も知らない世界の人々が、世界の舞台で日本人選手のパフォーマンスと結果だけを眺めて「すごいね」と言う状況を、日本の選手はもとより、関係者もメディアもみんなで、それこそゴルフ界全体が総力を上げて、もっと整え、作っていかなければいけない。そうでなければ、日本のゴルフ界は縮んでいくばかりだ。

文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)

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