「タイガー・ウッズの大会」、ヒーロー・ワールド・チャレンジは、米国の新鋭、ジョーダン・スピースの圧勝で幕を閉じた。

 8月の全米プロ以来、ほぼ4か月ぶりの復帰戦を迎えたウッズは初日から最下位発進。おまけに激しい体調不良に見舞われて最後まで最下位のまま終わったが、開幕前は久しぶりに穏やかで明るい笑顔を見せていた。

復帰戦で穏やかな表情を見せたウッズ。「進歩している」
 その開幕前の会見で、にこやかなウッズに米メディアからストレートな質問が飛んだ。

 「最後にメジャーで優勝して以来、年齢を重ね、故障も経験し、今も父親ではあるけど離婚も経験した。もしも、そういうことがアナタのゴルフの成績に影響を与えたとしたら、一番大きな影響を与えたのは、その中の何ですか?」

 ウッズはにっこり笑いながら「そりゃ年齢だよ。老いてきた」と答え、いくつかの例を挙げ始めた。

 「マイケル・ジョーダンは、かつてのように他の選手より高くジャンプすることはできなくなったけど、彼はそれまでとは違う方法でポイントを取る方法を見い出した。僕も同じだよ。その昔、僕は290ヤードをキャリーで飛ばして、それがゴルフ界のビッグドライブだった。でも、今どきは、飛ぶと言えば、キャリーで320ヤード、325ヤードのことを指す。バッバ・ワトソンらは325ヤードをキャリーで飛ばし、フェアウェイバンカーを越えていく。でも、今の僕には、もうそういうことができない」。

 ここでウッズの話が終わってしまったら、これは老い始めた選手の単なる愚痴になってしまう。だが、この先にポジティブな話が続くからこそ、王者ウッズなのだ。

 「でも、長年やっていれば、逆にいいこともあるんだ。だからこそ、サム・スニードやトム・ワトソン、グレッグ・ノーマンたちは年齢を重ねても優勝したり、優勝争いに絡んだりできたんだ。どうしても年は取るけど、ずっと他の選手たちを肉体面で凌駕し続ける必要はないからね」。

 ウッズが言った長年やっていればこその「いいこと」は、いわゆる経験を指しているのかと最初は思った。勝利、敗北、故障、復帰、スイング改造。長いキャリアの中で、いろんな経験を重ねてきたからこそ得た経験値を彼は「いいこと」と言ったのだと思った。

 もちろん、それも含まれていたのだろう。が、このときウッズが言った「いいこと」は、そうした経験を積み重ねる以前のジュニア時代、アマチュア時代に遡るものだった。

 理屈や理論を抜きにしてクラブを振っていた幼少時代。「あのころはスイングで体を故障するなんてことは無かった。両手から体へ、スイングへと伝わっていた感覚こそが究極なんだ。その感覚を呼び戻したい」。

 最近は自分の古いスイングビデオを見返しているという。築き上げてきた経験や財産を維持しながらも、究極の原点へ戻っていける。そんな芸当、そんな挑戦ができることが、ベテラン選手の旨みだ。

 それにしても、究極の感覚を呼び戻したいと思うということは、それが「なくなっている」「薄れている」「減っている」と気づいたことになる。なぜ、身についていたはずの感覚が、どこかへ行ってしまっていたのか。ウッズは、スイングの動作や軌道を測る機器、膨大なデータを分析する機器は「とても便利で役に立つ」と前置きした上で、「でも、それは究極ではないんだ」と、きっぱり。

 今大会でウッズに伴って登場した新コーチのクリス・コモには、新しい技術や理論の指導を求めるのではなく、「僕が僕らしくスイングできているかどうかを確認し、相談する相手」になってほしいとウッズは言う。だから、ウッズはコモを「コーチ」とは呼ばず「コンサルタント」と呼んでいる。

 幼少時代から生涯5人のコーチに付き、そのたびに新コーチの教えに従い、新たな試行錯誤を繰り返してきたウッズ。めまぐるしい日々の中、未来を見つめるあまり、過去に目をやる余裕はなかった。

 だが、今、ようやく古き良き原点、出発点に目を向け始めたウッズ。原点を探す旅は30年以上も時を遡る長い旅になるけれど、生涯6代目のコーチ、いやコンサルタントが一緒だから、きっと、いい旅になる。

文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)

<ゴルフ情報ALBA.Net>