太平洋を渡って日本へ降り立ち、ダンロップフェニックス・トーナメントで体調不良ながらも3位に食い込んだと思ったら、今度は南半球へ渡り、オーストラリアン・オープンで堂々の優勝を飾ったジョーダン・スピース。今週はすぐさま米国へ戻り、フロリダ州で開かれる「タイガー・ウッズの大会」、ヒーロー・ワールド・チャレンジに出場する。

J・スピース「ヒデキは勝負師の本能を持っている」
 かつては、戦う場を求めて世界各国を放浪する下位選手たちのことを「ラビット」なんて呼んでいた時代があった。だが、現代は逆にトッププレーヤーたちが世界を駆け巡る時代。米ゴルフ界の期待を背負う新鋭スピースがアジアへ、オーストラリアへと駆け回る姿は選手たちのグローバル化の表れだ。

 オーストラリアン・オープンは110年の歴史を誇るオーストラリアのナショナルオープン。母国の由緒ある大会にアダム・スコットが出場するのは当然と言えば当然だが、その一方で、今年の大会には世界12か国から選手たちが集まり、ディフェンディングチャンプとして大会2連覇に挑んだのは北アイルランドのローリー・マキロイ、優勝したのは米国のスピース。出場選手、注目選手とも国籍は多様化していた。

 スター選手は高額のアピアランスフィー(出場料)を受け取るのだから、海外へ出向くのはシーズンオフの小遣い稼ぎにすぎないという見方もある。だが、高額を支払ってでもスター選手を呼んで盛り上げようという意志や経済力が各国の大会側にあるということは、それだけゴルフ界でお金が回り、興業ビジネスとしてのゴルフがいい状態にある証。そう考えれば、眉をひそめるような悪い話ではない。

 そして、スター選手ではなくても、あえて足を運ぼうと思い立つ要素がオーストラリアン・オープンには備わっていた。この大会は世界の各ツアー(特定大会)に設けられた「全英オープンへの道」の第1弾、つまり「道」の起点となる大会だ。

 2015年の全英オープン出場資格をまだ手に入れていない選手の中で、この大会の上位3名(トップ10入りが前提条件)には来年のセント・アンドリュースへの切符が渡されることになっていた。

 見事、その切符を手にしたのは結果的にはロッド・パンプリング、グレッグ・チャルマーズ、ブレット・ラムフォードというオーストラリア人ばかりとなったが、選手たちが国境を超えて活動し、国籍とは無関係にチャンスや勝利を追い求めるボーダーレス化は、この「全英オープンへの道」のように、メジャー大会やビッグ大会の出場資格獲得を中心として、これから一層、活発化していくと思われる。

 選手がどこで勝利を飾るか。そこに国籍というボーダーは、もはやない。どこの国で生まれたかではなく、どんな環境でゴルフを覚えてきたかのほうが勝利に及ぼす影響は大きい。今大会ではオーストラリアでも珍しいほどの強風が吹き、スコットやマキロイらを苦しめた。もちろん彼らだって強風が吹く環境でたくさんゴルフをしてきたけれど、スピースも生まれ育ったテキサスで強い風に吹かれながらゴルフの腕を磨いてきた。その経験が今大会で生きたことは言うまでもない。

 もう1つ、スピースがゴルフを覚えた環境と言えば、彼は幼少のころから一人で黙々と練習を積んでいた。障害を持つ妹に両親が最大限の時間を割けるように、自分は両親を煩わせないようにという兄としての健気な気遣いから、スピースはできる限りゴルフ場に長居して練習に精を出していた。その体験が彼の精神力、忍耐や集中力を培ったのだろう。

 ゴルフの試合で知らない土地に行くたびに、スピースはその土地のキーホルダーを可愛がっている妹のために買っていくそうだ。妹の大切な大切なコレクション。スピースは宮崎でもオーストラリアでも、きっとキーホルダーを買ったはず。そして、キーホルダーと優勝トロフィーを抱いて実家に帰るクリスマス休暇はもうすぐやってくる。

 クリスマス休暇が終わったら、スピースも世界のプロたちも、あっという間に始動だ。グローバル化、ボーダーレス化が進むゴルフ界は、ああ、本当に忙しい――。

文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)

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