全米プロを戦い終えた松山英樹に対し、日本メディアは今季のメジャー4大会での成績不振の原因を聞き出そうと、みな手ぐすねを引いていた。

松山、最終日にようやく68!「やっと最後まで粘ることが出来た」
 というのも、昨年の松山はメジャー大会で大活躍だったからだ。マスターズには出られなかったが、全米オープンは10位、全英オープンは6位、全米プロ19位と、いずれも初出場にして好成績を挙げた。だが、今年はマスターズで予選落ちを喫し、全米オープン39位、全英オープン35位、そして通算3アンダーどまりとなったこの全米プロも下位に沈むことはすでに明らかだった。

 だから、メディアの質問がそこに集中したのは自然な流れだった。それに対して松山は松山なりに自分の考えを言葉にした。

「去年は上位で戦えていた部分があるので、少なくとも去年の自分の状態に戻れば、そうやって上には行けると思う」

 松山のそんな返答を聞きながら「ダメダメ。戻ってはいけない」と、心の中で小さく反論した。何であれ、後戻りはいけない。去年がどんなにショットやパットが好調だったとしても、過去の感触、過去の状態を追い求めて後戻りしてはいけない。そう思わずにはいられなかった。

 そもそも今季の松山はメジャーでは振るわなかったが、米ツアーで初優勝を挙げたのだから、成績面では大きな進歩と前進を遂げたと言っていい。

 それに、優勝や上位フィニッシュといった数字や結果には反映されないところにも、松山の進歩と前進は見て取れる。

 たとえば、去年や今年の始めごろの松山は、何かに対する原因や対策を尋ねると、どんなときも必ず「練習だと思います」「まだまだ練習が足りない」と決まり文句のように答えていた。技術こそがすべて。練習こそがすべて。彼はいつもそう言っていた。

 けれど、米ツアー本格参戦を開始した今年は、広大なアメリカ大陸を転戦し、毎週毎週、いろいろな土地に赴き、異なる土地の異なる気候の下、異なるコースで初めて顔を合わせる強豪選手たちとプレーを重ね、そうしているうちに技術以外のいろんなことの重要性を身を持って知ったのだと思う。

 最終日最終組に入っても、自信がなくて「不安のほうが大きい」と暗い表情を見せ、それがそのまま反映されて元気のないゴルフになったこともあった。逆に、ショットの調子は万全ではなくても、いけると思って挑んだときは、緊張することなく、健やかな心で1番ティに立つことができた。

 そんな日々を経て挑んだ今週の全米プロは、前週のブリヂストン招待終盤につかんだ好感触を維持することができなかったけれど、今後はどうしたら上に行けるかと尋ねられた松山は、今までは示さなかった考えを言葉にした。

 「来年また4つのメジャーに出られるよう頑張りたい。体も、技術も、精神的な部分も、もっと磨いていって、来年こそは初日から崩れることなく常に上位でプレーできるように頑張っていきたい」

 ずっと「技」ばかりを語ってきた松山が、ようやく「心技体」を語るようになった。その変化、その進化は大きい。

 松山は「去年の調子に戻れれば」と言ったけれど、仮に技術面における今の調子が去年のそれと同じ状態になったとしても、彼が身を置く環境はすでに変化し、彼の心や体は、その変化に順応してすでに進化している。

 去年どこかで打った会心の一打を、今、同じ位置から同じピンを狙って同じ場所につけたとしても、今の松山のゴルフは去年の松山のゴルフに戻りはしない。なぜなら、去年から今年にかけて彼が過ごしてきた日々、重ねてきた努力、味わってきた苦労や経験、喜びや悔しさ、いろんなものが、すでに彼のゴルフにプラスされているからだ。

 だから「去年に戻れば」なんて思わなくていい。信じるがままに進んでいけばいい。

 ローリー・マキロイやリッキー・ファウラーは、なぜメジャーで上ばかりを走り続けられるのか。彼らには「いろんなものがあるから」と松山は言ったけれど、松山にもすでにある。まだ量は少ないけれど、すでにある。

 いろんなものがもっと増え、最大量になったとき、きっと松山にもメジャー勝利が見えてくる。

文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)

<ゴルフ情報ALBA.Net>